読書の秋、本屋さんでおなじみの「選書フェア」をミモレ誌上で展開! 編集部員が1つのテーマに絞って厳選、推薦コメントとともに紹介します。

読み物班チーフで、私生活では男の子3人のママでもある坂口は「サクサク読めて内容も充実の人文書」をテーマにセレクト。難しい本を読みこなす時間も気力もない、でも学びたい! という人には、特におすすめしたい5冊です。

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専業主夫の立場から見た家族、夫婦、男女の役割
『主夫と生活』

『主夫と生活』マイク・マグレディ・著 伊丹十三・訳 アノニマ・スタジオ

ニューヨークの新聞社で活躍する人気コラムニストの著者は、妻がインテリア雑貨のブランドを立ち上げて成功したことをきっかけに家庭内役割を交換、仕事を辞め家事と子育てを担うことに。洗濯物の子どものソックスを両足揃えるのに何時間も格闘していた主夫なりたてのマイクが、終盤には妻のビジネスを応援し子どもの成長を支える家庭にとって「なくてはならない人」となるまでの1年の記録です。

専業主夫の立場から見た、家族、夫婦、男女の役割に対してウィットの効いた視点を提供するこのエッセイ集、実は約50年前に書かれたもの! 自身も名コラムニストとして知られた映画監督、故・伊丹十三による洒脱な翻訳で1983年に出版された本を、2014年に復刊したものがこちらのアノニマ・スタジオ版です。50年経った今の日本の私たちが読んでも、100%いや120%共感できる内容の古びなさとともに、社会のジェンダー不平等の根深い変わらなさも実感してしまう、そんな本だと思います。

 

ルッキズムのあるあるをブスからも美人からも多面的に描く
『ブスなんて言わないで』

『ブスなんて言わないで』とあるアラ子・著 講談社

アフタヌーン本誌に掲載されていた試し読みの数話を読むなり名作と確信、即アプリで購読した作品(自社本だから社内で読めるのに……笑)。ぼちぼちなんらかの漫画賞を取る気がしています。

「ブス」として学生時代にいじめられたことから今もなるべく顔を隠して生活している知子は、いじめグループの中心人物だった「美人」の同級生・梨花が美容家として女性誌やメディアで活躍しているのを目撃。しかも梨花はただ成功しているばかりでなく、世に蔓延るルッキズムを批判して「ブスなんて1人もいない」「自分の容姿に自信を持とう」と呼びかける立場をとっており、知子は怒りに打ち震えます。その後、あることをきっかけにふたりは再会し共に働くことになるのですが……。

人は美しいものに惹かれてしまう、ということを横串に、「ブス」「美人」「自虐」「男のルッキズム」「過食」……といったテーマがところどころで顔を出します。しかし、決してどれか一つに肩入れすることのない話のトーンが、今の時代で生活する私たちの感覚に違和感なく届きます。それでいて、もちろんきちんとエンタメ・ファースト。リアリティも含め、すごく完成度の高い作品だと思います。

 
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