人々の営みから伝えるロシアの“普通”
『ロシア点描 まちかどから見るプーチン帝国の素顔』

ロシアのウクライナ侵略がまだ続いています。当初、あまり実像がわからない存在だったロシアという国について、自ら調べ少し知識が増えたという人も多いことでしょう。

この本もまた、そんな風に手に取られるであろう1冊ですが、どちらかというとロシアの日常や草の根の国民たちの姿を滞在記のように伝える部分が大半であり、プーチン政権の政治観を分析することが主となっているわけではありません。(実際、多くはウクライナ侵攻前に書かれたと思われ、またそこが良いなとも思います)

プーチン大統領が盛んに使っていたことで脚光を浴びた「地政学」という言葉を引き合いに出すまでもなく、常識とか普通とか善悪というものが普遍的なものではなく案外住む場所の影響を受けていることをひしひしと感じさせる本だと思いました。

著者は東大先端研に在籍するロシアの軍事・安全保障政策の研究者ですが、Twitter界隈での通り名がころころ変わる(現在は「動員」になってますね)、18万超のフォロワーを抱える軍事オタク・インフルエンサーでもあります。だからと言うわけでもないですが、お気軽に。読み口はわりと軽いです。

 

ただの数字ではない“お金”の実態をつかみ直す
『お金のむこうに人がいる』

『お金のむこうに人がいる』田内 学・著 ダイヤモンド社

たとえ仮想通貨や株式などの運用投資をしていなくても、クレジットカードやキャッシュレス決済などと無縁という人は少ないはず。スマホやPCの画面上でお金を動かすことが、コロナ禍でより一般的になりました。つまり、形ある現金以上にますます実態がつかみにくくなっているのが今の「お金」。だからこそ、この本で語られるお金の正体を知れば目からウロコになることでしょう。

元外資系金融機関で金利トレーダーをしていた著者による経済本は、本当に理解している人による説明は易しい、というお手本のよう。「将来使ったときに、誰かに働いてもらえる券」というお金の定義をベースに考えると、ただの数字に見えていた「お金」に再び手で触れるような現実感が戻ってきます。労働、価値、幸せ……といった一見するとふわふわと曖昧な概念が、霧をはらったかのようにクリアに見えてくる本です。

「男」を「女」に置き換えたときに見えてくること
『「非モテ」からはじめる男性学』

SNSやYouTubeで誰もが発信することが増えた現代(ミモレのブログ記事だってそのひとつですよね?)、自分のことを客観視する機会は増えたかもしれません。とはいえ、無意識レベルの我慢だったり行動規範だったりは、それが昔から慣れ親しんだものであればあるほど、客観視は難しいと思います。

それがしっくりきているかきていないかの違いはあるかもしれませんが、もしあなたが女性の場合、生まれてこのかた「女」を生きてきたわけですから、「女」であることを考察するのはとても難しい。この本は、それと同じ難しさで、男性である著者やその仲間たちが「男」であることを考察している姿を垣間見ることのできる書です。

「男らしさ」の脅迫に自分自身苦しめられているのに、自分より弱そうな対象には無意識に加害的に振る舞ってしまうことに自ら気づいたりする姿。「男らしさ」を「女らしさ」に置き換えたら、いろんなことが見えてきそうです。自分のことは見えないが、人のことならよく見える。そういう意味で読む価値のある本だと思います。

モテないことに悩む男性たちの語り合いグループ「僕らの非モテ研究会」で、自称「非モテ」たちが苦悩や気づきをたどたどしくも言葉に変えていき共有していく様子は、私たち女性には慣れ親しんだコミュニーケーションでもありますから、案外女性読者のほうがすんなり読めるのでは。


構成/山崎 恵
 

 

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