オウム真理教から30年、仕組みを何ひとつ作れなかった日本の社会
アツミ:……で、でも世の中が「何が起きているか」を知ることは大事ですよね。
有田:そうそう。僕は今回の統一教会問題を通じて一番大事だと思ったのは、カルト教育をすることだと思うんですよ。
アツミ:宗教教育じゃなくて、カルト教育。
有田:「こういう集団には気を付けましょう」というもので、フランスやドイツでは当たり前に行われているものです。
日本でも各大学が「こういうグループには気を付けて」と発信していますし、神奈川大学ではジャーナリストの江川紹子さんが講義をもっています。でも本当なら中学高校くらいで教えることが必要なんですよ。今回の統一教会問題をきっかけに、そういう社会教育の仕組みを行政が作っていくべきだと思います。
坂口:カルト的なものはどこでも生まれ続けるというか、どこにでもあるから、ある前提で生きていったほうがいい、と。
有田:オウム真理教の事件って世界に衝撃を与えて、フランスではさっき話した反セクト法の前提としてまずカルト教育があるんですよね。でもあれだけの事件を実際に経験した日本では、この30年で何の動きもない。普通なら「あの事件があったからこういう仕組みができたんだよ」っていうものがあるべきなのに、何もないんです。国会でもそういう議論はないし。
アツミ:こういうの、家庭でできないですかね。親がハマることもあると思うけど、知らないうちに子供が引き込まれるってこともあると思うんですよね。
有田:できると思いますよ。そのためには親世代が学ばなきゃいけない。地方自治体が公民館などで講習会を開くという形でやってもいいですよね。僕が言いたいのは、とにかくひとつでもふたつでもみっつでも、今回をきっかけに何かしらの仕組みを作らなきゃダメだということ。一番やりやすいのが社会教育ですよね。カルト教育、カルト講習。それから2世信者を支援する相談窓口を全国各地に作ること。社会があまりに鈍感ですよね。もう少しそうした課題に敏感になってもらいたいなと思います。
取材・文/渥美志保
構成/坂口彩(編集部)
有田芳生さん1952年京都府生まれ。ジャーナリスト。出版社勤務を経てフリージャーナリストとして活躍。主に週刊誌を舞台に、統一教会、オウム真理教事件等の報道にたずさわる。2007年まで日本テレビ系「ザ・ワイド」に出演。2010年に民主党から立候補し参議院議員となり、拉致問題、差別、ヘイトスピーチ問題などに積極的にとりくむ。