1位:『鎌倉殿の13人』
世界よ、これが日本のドラマだ
もう文句なしのナンバーワン作品。北条義時なんて、正直日本史の授業で習ったどうかさえ定かではありませんでした。それが今や、刀を握るより米蔵の米俵を数える方が好きだった青年が、歴史の流れに飲み込まれ、権謀術数渦巻く抗争劇を制し、武士の頂点に立つ姿に夢中です。
その魅力を一言で語るなら、圧倒的な完成度。本作は、歴史書『吾妻鏡』をベースにしながら紡がれる、武家政権確立までの壮大な歴史エンターテインメント。あくまで史実にのっとりつつ、史料の余白に埋もれた「あったかもしれないドラマ」を独自の視点と解釈で盛り込む稀代の喜劇作家・三谷幸喜のストーリーテリングに圧倒されっぱなしの1年間でした。
上総広常(佐藤浩市)。源義高(市川染五郎)。源義経(菅田将暉)。源頼朝(大泉洋)。阿野全成(新納慎也)。比企能員(佐藤二朗)。源頼家(金子大地)。善児(梶原善)。畠山重忠(中川大志)。和田義盛(横田栄司)。源仲章(生田斗真)。源実朝(柿澤勇人)。次々と現れる魅力的なキャラクターたち。そして、みんな壮烈に散っていく。そのほとんどが1年前まで名前さえ知らなかったような人たちです。なのに、いつしか退場回がやってくるたびに、胸が引き絞られたり、嵐になぎ倒されたような気持ちになったり、毎週日曜は情緒がおかしくなっていた。
始まりは、伊豆の小さな豪族のお話だったのです。気の良い父親(坂東彌十郎)に、しっかり者の兄(片岡愛之助)。度量の大きな姉(小池栄子)に、ちゃっかり者の妹(宮澤エマ)。愛され上手な弟(成長後・瀬戸康史)に、欲張りな後妻(宮沢りえ)。主人公・小四郎(小栗旬)の人生はそれで十分幸せだったんだと思う。
だけど、望む望まないにかかわらず、人は立場によって変化していく。そして、過ぎ去ったときは二度と戻らない。ただめぐりくる日々を一生懸命に生きただけなのに、気づけば平穏な家族の風景は遠く彼方。目の前に広がるのは修羅の道。姉や息子(坂口健太郎)の心も離れ、歩を進めるだけで足の裏に血が流れるような道を行くしかない。そんな小四郎=義時の人生を見ながら、生きるとはどういうことなのだろうか。幸せとは何なのだろうかと、ひたすら考え続けた1年でした。
そして最終回。ラスト15分は、まさにテレビドラマ史に残る名場面。あの政子の行動は、救いか、それとも罰か。いとおしき姉弟の結末を僕はきっと生涯忘れることはないでしょう。
脚本、スタッフ、キャスト。すべてが揃った屈指の名作。1年間見守り続けた今、自信を持ってこう言い切ることができます。『鎌倉殿の13人』は世界に向けて発信できる、日本のエンターテインメントの最高峰である、と。
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