作家・ライターとして、多くの20代~40代の男女に「現代の男女が抱える問題」について取材をしてきた山本理沙。その赤裸々な声は、まさに「現実は小説より奇なり」。社会も価値観も変化していく現代の夫婦問題を浮き彫りにします。

今回取材にご協力いただいたのは、10年近くも不妊治療を続けていたという雪美さん(42歳・仮名)。ご主人はアメリカ人で、仕事の都合で海外赴任や別居をされながらも様々な治療を試されました。その間に三度も流産を経験したと言いますが、「あの10年は本当につらかった」と目を赤くしながら語る雪美さんが、どのように不妊治療と向き合ったのかお話いただきました。

 
取材者プロフィール
雪美さん(仮名)42歳
職業:専業主婦
家族構成:1児の母、現在妊娠中
    
 


「あの辛さは、経験者にしかわからない……」


数年前に雪美さんに会ったときのこと。

それは古い友人同士の集まりでしたが、30代後半の女性のほとんどは子連れで、集まったレストランの個室はとても賑やかでした。

女子同士のおしゃべりは息をつく間もなく続き、子どもたちの歓声も止まらない……そんな中、雪美さんは「実はまた流産しちゃったんだよね。ああ、本当にはやく赤ちゃん欲しい」と、友人の0歳の赤ちゃんを笑顔でぎゅっと抱きしめていました。

彼女が長年不妊治療をしていることは全員が知っていましたから、皆口々に彼女を励ましましたが、明るく凛とした彼女の人柄のせいか、気まずさなどはありません。

空気が重くなってしまってもおかしくない会話の中、友人の子どもたちをまるで親戚のように可愛がり、まっすぐ見つめ、手を差し出す雪美さんの姿は強烈に印象に残っていました。なんて強い女性なのだろうと。

「あの頃は、たしかに辛い時期でした。SNSで知り合いの妊娠報告を見ては落ち込んだりもしましたよ。『子どもは作らないの?』という何気ない言葉に過敏になったり、『赤ちゃんといれば妊娠ホルモン出るよ?』と、恐らく他意のない友人にシッターのアルバイトを頼まれて、さすがに距離をとったこともあります。あの辛さは、たぶん経験者しかわからないと思います……」

こんなエピソードを聞くと唖然としてしまいますが、悪意はなくとも配慮にも欠ける発言は他人を深く傷つけてしまうことを痛感します。

「不妊治療を続けても、結局子どもができなかったら私はどうなるんだろう。どうして私だけ……と思い詰めてしまったり。思えばよく一人で泣いてました」

ちょうど今年2022年4月から、不妊治療が保険適用となったことは大きなニュースになりました。けれど2年前に妊娠した雪美さんはすべて自己負担で不妊治療を行い、かかった費用は10年で約1000万円。その負担は精神的にも経済的にも夫婦に大きなプレッシャーを与えました。

「でも私は、とにかく子どもが好きだった。辛くても、絶対に子どもが欲しいという気持ちしかありませんでした」

不妊治療に専念した約10年。どんなに大変だっただろうと想像に耐えませんが、お話の中で何より印象に残ったのは、尊い夫婦の絆でした。