連ドラ『初恋の悪魔』
坂元裕二さん脚本、林遣都さん・仲野太賀さんW主演、松岡茉優さんと柄本佑さんが共演……と事前情報から期待しかなかったこの作品。うたい文句は「ミステリアスコメディー」だし、殺人事件の謎を追っているし、タイトルは『初恋の悪魔』だし、要素てんこ盛りでどんな話なのか、どんな結末になるか全然想像がつきませんでした。
それぞれに問題を抱えた4人が出会い、関わることで救われ、前を向いていくところがよかったし、心に刺さるセリフも多かったです。
兄と比べられるのがつらくて避けるようになり、留守電を無視しているうちに兄が死んでしまって後悔している悠日(仲野太賀)が星砂(松岡茉優)と話すシーン。「欲しいものを手に入れた人と手に入らなかった人がいて、欲しいものが手に入らなかった人は、もう他に何にも欲しくなくなってしまう」という悠日のセリフは、うまくいかないことのほうが多い世の中、刺さる人も多そうです。「兄ちゃんから電話あったんだろ? 出なよ」という星砂の提案は一見唐突に見えましたが、泣きながら笑顔で話す悠日の表情から、彼が本当はずっと兄と話したかったのだとわかります。
星砂の「普通の人とか特別な人とか、平凡とか異常とか、そんなのないと思うよ」「ただ、誰かと出会ったときにそれが変わる」「平凡な人を平凡だと思わない人が現れる」「異常な人を異常だと思わない人が現れる」「それが人と人との出会いのいい、美しいところなんじゃないの?」という言葉には、いわゆる「普通」になれないなぁと悩んできた筆者は救われた気持ちになりました(もはや「普通」という定義自体がなくなりつつありますが)。
学生の頃はいじめられ、孤独に過ごしてきた鈴之介。彼が住む家の元の持ち主だったが突然亡くなった年配の女性・静枝(山口果林)が、自分との関わりで娘と孫が亡くなった事故の復讐をやめ、感謝していたということを知り、「おしっこ行ってきます」と言って声をあげて泣くシーンなどはもらい泣きしてしまいました。
物語が進むにつれ、登場人物に思いもよらない事実が発覚するなど最後まで波乱は続きましたが、心がじんわり温かくなる作品でした。
ネタバレになるので前後ははぶきますが、最終回の杏月(田中裕子)の「お別れじゃないよ。会えなくても、離れていない人はいるの」という言葉には、もういない大事な人のことも思い出して励まされました。坂元裕二さんの脚本も、坂元裕二作品の田中裕子さんも、やっぱり最高だな……とあらためて思った瞬間でした。
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