高級ランチで体験した強烈なカルチャーショック
みなさんには、「私って小さな世界に生きていたんだな……」と気づかされた経験がありますか? 私はモナコに移住したばかりの頃、意外な形でそれに気づかされました。
その日は朝から快晴で、まさに地中海性気候の気持ちがいい青空。私はゆっくり流れる時間を楽しみながら、いつもよりラグジュアリーな時間を過ごそうと、一人家を出ました。目指すは王宮前の広場を横切ったところにある「カステル・ロック」。古くからある、モナコ料理の専門店です。テラス席に腰を落ち着け、食前のワインを頼み、優雅な気分でモナコの風景に溶け込む自分を演出していました。
ところが、前菜を口にしているとき、自分に熱い視線が注がれていることに気づきました。こちらをじっと見ていたのは、現地では「アルバトロス」と呼ばれる1羽の大きなアホウドリです。
長いくちばしが特徴のアルバトロスは、じっと私を見ています。それは獲物を狙うハンターのような目つきで、私もつられるようにアロバトロスを見つめ返します。そこにメインの料理が運ばれ、ナイフとフォークを手にしようと視線を外した瞬間でした。バサッという羽音とともに長いくちばしを前に突き出し、アルバトロスがずんずんと私に向かって進み出したのです。
もともと鳥が苦手な私は、「え!」と驚きのけぞります。すると、その隙をついてアルバトロスはテーブルにジャンプして飛び乗り、長いくちばしを器用に使いながら、私の料理をむしゃむしゃと一気に平らげてしまったんです!
これまで、ビジネスで三重から東京に進出し、香港、アジアと活動の範囲を広げ、それぞれの土地を訪れるたびに、さまざまなカルチャーショックを受けてきました。でも、食事中に鳥が自分のお皿に飛び込み、料理を奪われたことはありません。しかも、少し背伸びした高級ランチです。周囲は裕福そうなカップルや家族連ればかり。私は一人、ショックと恥ずかしさで混乱していました。
イスごと体を後ろに引いて目が点になっている間、アルバトロスは悠々と食事を続けています。ようやく動揺が収まり始めると、「どうしてホールスタッフはアルバトロスを追い払ってくれないんだろう?」「なぜ誰も助けてくれないんだろう?」という疑問と怒りがわいてきました。
「私は何も悪くないし、食事は台無しにされてしまったし、今日の食事代は無料になるわよね? 日本のレストランならそうするはず」という考えもよぎり、きょろきょろと周囲を見回しました。すると、なぜか隣の席に座る紳士が手を叩き始め、拍手の輪がテラス席全体に広がっていったのです。きょとんとする私に、彼は英語でこう言いました。
「今日はあなたのもとへ、素晴らしいゲストがやってきましたね。素敵なランチタイムになって良かったですね!」
目が点です。でも、周りのお客さんも微笑えみを浮かべて手を叩いています。
「ユーモア」で、悲劇的な雰囲気は一気に喜劇に変わりました。
さらにホールスタッフも、アルバトロスが平らげて空になった皿を下げに現れ、「デザートをお持ちしますか?」と何事もなかったような顔をしています。
「私一人だけが目くじらを立てて怒っているのが、何だか滑稽だわ……」
私はふと冷静になりました。
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