どこまでも後味悪く、でも先が気になる!

『るなしい』(1) (KCデラックス)

年末年始にあえて逆張りといいますか、ドロドロ、モヤモヤしていて、後味の悪いマンガを読みたい! という人はいませんか? 私はそんなタイプだったりもしますが、ぜひおすすめしたいのが『るなしい』です。

「信者ビジネス」を題材にした作品で、主人公は高校生の郷田るな。「火神の医学 鍼灸院」を営む祖母と二人暮らしで、幼い頃から“火神(かじん)の子”として育てられてきました。処女を守り、恋をすることは厳禁。彼氏を作ったり、セックスをしたりするなんてもってのほかです。彼女の血を含ませた紙が入ったもぐさを使うと、お灸の効果が高まると言われており、それはもちろんタダではありません。

 

るなはメガネにソバカス顔の地味な少女で、しかも怪しげな“火神の子”とあって、学校ではいじめを受けています。彼女がそのことをさほど気にしていないのは、彼女は彼女で、るなのお灸を頼りにしている仲間がいて、そこに自分の居場所を確保していたからです。

ある日、彼女が普段は全く接点がないはずの、クラスの人気者・ケンショーと言葉を交わします。ケンショーは家が貧しくて苦労してきたことから、いつかビジネスで大成功したいという野望を抱いていました。恋することを禁じられ、それを真面目に守ってきたるなは、ケンショーに恋心を抱くように。ところが、“火神の子”の罰が当たったのか、心身のバランスを崩してしまうるな。そこで、ケンショーへの恋心を断ち切るために、彼を祖母と営む鍼灸院に招き、彼を「信者ビジネス」に取り込む決意をします。

 

「信者ビジネス」とは、カリスマ的存在の人が、特別な施しなど与えることで信者のような熱心なファンを集め、対価を得るビジネスモデルのこと。悩める人に寄り添うようでいて、実は人の弱みにつけ込んでいるわけで、その先に救いや幸福があるようには思えません。るなはケンショーだけでなく、学校にいるクラスメイトをどんどん巻き込んでいくので、読み手は「信者ビジネス」が形成されていく過程をつぶさに追うことになります。るなもまた、物心ついた頃から祖母の教えに従ってきたので、「信者ビジネス」に翻弄された一人と言えるでしょう。

読み進めた果てには絶望しかないのだろうとうっすらわかっていても、不快な気持ちにどんどん侵食されていっても、先が気になってやめられない。そんな中毒性のある“危険”な作品です。

本作も『このマンガがすごい! 2023』オトコ編38位にランクインし、マンガバラエティ番組『川島・山内のマンガ沼』の『このマンガがすごい! 〜芸人楽屋編〜 2022年BEST10』の9位にも登場。ディープなマンガ読みにも支持されている異色作です。

高すぎる鍼灸院。「信者ビジネス」で人の心を籠絡する恐ろしさとは?『るなしい』>>