自ら行動したとき、物語が好転。特に紬は自分から動く


また一方で、「そんなことする?!」と、客観的に見ると大胆だなという行動を登場人物(大半は紬)がしたときに話が動いたり、不可能だと思っていたことを可能にしたりしています。

例えば1話で再会した想に激しく拒絶された紬。普通の人なら、ここで想と関わることはあきらめてしまうでしょう。でも紬は手話を習い始め、驚くべきスピードでマスターして想の心を動かします。結果「もう話せない」と言った想の言葉を覆してしまいました。「想が自分に会うのを嫌がっているから接触しないようにしよう」などという気遣いをしたら成立しないことです。

3話で想と2人きりになって、つらくて紬の家を飛び出した湊斗。涙の理由を知った紬は「直接言わないと伝わらない」と想がいる自分の家に湊斗を戻し、自分は外出します。結果、2人は前のように仲のいい友達に戻れたのでした。そして「想と同級生たちを再会させてフットサルをやろう」と湊斗が動き、本当に実現します。

湊斗が紬との別れを決めたのにも、それまで紬の希望を聞いていた湊斗がそこに関してはかなり一方的な態度だったのにも驚きましたが、少なくとも紬と想の仲は深まったし、湊斗も物語からフェードアウトすることなく関わっているし、物語を大きく動かしました。

なによりヒロイン・紬は自分から行動するタイプ。ときには「さすがに無神経なのでは……?!」とヒヤヒヤすることもありますが、なんだかんだ行動が状況を好転させています。

告白されたわけでもないのに、再会した想に「私、湊斗のことすごい好きなんだよね」「佐倉くんは違う」「好きじゃない」と伝えたり、「声でしゃべらないの、何で?」「途中で聞こえなくなった人は声で話す人が多いって聞いたから、何でかなって思って」と聞いたり、奈々が想に失恋した直後で、自分も取り乱した奈々と接したのに「奈々さんと話したいんだけど、連絡先教えてもらっていい?」「奈々さんてどんな人?」と想に頼んだり……。

奈々、さすがにこれは飲み物をかけてもいいんじゃないか? と思いましたが、奈々は紬の一生懸命さに胸を打たれます(いい人すぎるな?)。なんだかんだ、「相手にこうしてほしい」「相手がこうしてくれない」みたいなポイントでも「私がこれをやってあげたのに」というポイントでもなく「私がこうしたい」で動いて成果も出す紬、すごい。

 

「自分から行動する」勇気をくれる作品


この作品自体は「深く愛した人と再会したら、病気で耳が聞こえなくなっていた」「8年会っていなかった」という、かなり深刻なシチュエーションで、同じような経験をしている人はすごく多いわけではないと思います。ですが、どんな経験でも「その人の苦しみはその人にしかわからない」し、特にコロナ禍の今、「直接会う機会が減って何となく会いづらくなってしまった、距離が離れてしまった」という相手がいる人は、結構多いのではないでしょうか。

自分から行動することが、必ずしもいい結果につながるかはわからないけれど、行動を起こさなければ何も変わらない。来年はもっと、大事な人たちに対して何か動こう……そんな勇気をもらいました。

泣いても笑ってもあと1回。紬も想も湊斗も、他の人たちも幸せになってほしいです。
そして、夢中になった3か月をくれたこの作品に、あらためて感謝します!
 

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