「自分のためにできること」が限界になったら……


「ゴンは最初は散歩に出ても一歩も歩くことができず震えたり、家の中でも小さなスペースでぐるぐる回り続けたり、一晩中遠吠えを繰り返したり、家のものを壊したり……。なかなかコミュニケーションがとれず、見ているこちらが辛かった。

それでも、根気強く向き合っていると、だんだんと心を開いてくれるようになるんです。可哀想な過去があるぶん、守ってあげたい気持ちも強くなって……。

これは本当に自己満足でしかないのですが、『可哀想な犬を育てている』という状態が、私の救いになりました。あの頃の私は自分の存在意義を完全に見失っていたので、結果として私が救われたんです。どんなに大変でも困らされても、ゴンのお世話をすることで、久しぶりに気持ちが安らぎました」 

「神様にお返しがしたい」4度目の体外受精で娘を授かった夫の願い。不妊治療中、夫婦を救った存在とは?_img0
 

また、雪美さんは後から知ったそうですが、実はこの時、ご主人も精神的に追い詰められていたのだそうです。

ご主人はとにかく優しく雪美さんを支え続け、不妊治療中に喧嘩をしたり気まずくなったことも一切なく、むしろ仲は良かったそう。しかし当然ながら、妻が三回も流産してしまったことに深く胸を痛めていました。

「流産を繰り返したあたりから、実は、夫は近所の教会に通うようになりました。無宗教の私はその本質がわからず最初は『何をしてるんだろう?』と少し怪しんでいましたが、信仰は、たぶん本当に心を癒す効果があるんだと思います。

コロナ禍ではオンラインでミサや牧師さんの動画を見ていたり、そのうち教会を通してホームレスの方の炊き出しのボランティアに参加したり、クリスマスに児童施設に寄付をしたりするようになっていました」

ご主人は雪美さんに強要することはなく、空き時間に一人でこうした活動をしていたそうですが、大変な状況の中、夫婦の行いの尊さには感服してしまいます。

ストレス解消といえば、普通は買い物や旅行、時にはお酒を飲んだりスポーツをしたり、娯楽を求める人が多数だと思います。しかしこうした話を聞くと、人は辛い時にこそ他者を助けることで、自分が救われるというのは本当なのだと思いました。とはいえ、こうした選択をするのは簡単ではありませんが、胸に留めておきたいお話です。

「綺麗事に聞こえるかもしれませんが、自分のためにできることに限界が来たときは、自分以外の誰かのためにできることをすると、思考も行動の幅も広がり、メンタルが多少健康でいられるのかもしれませんね。

そしてその頃、再び通い始めた病院から『不育症』の検査を勧められ、やってみることにしてみたんです」

するとこの検査で、雪美さんは子宮まわりの血流が悪く、それが原因で着床した受精卵が育たない可能性があると判明したのです。