2人の男性の間で……、どっちも選ばないというオチ


もう1つ、同じ夏ドラマに興味深い作品がありました。それは有村架純と中村倫也主演の『石子と羽男-そんなコトで訴えます?-』です。こちらも、上がり症であまのじゃくな天才弁護士・羽根岡佳男と、優秀だけど頭でっかちなパラリーガル・石田硝子のバディもの。やはり最初はいがみ合っていましたが、次第にお互いが自分にないものを持っていると認め合い、最高のバディへと進化していきます。

こうなれば当然、仕事だけでなく男女としても理解し合うはず……と早とちりするもの。ところが石子はまさかの、全くの第三者を選ぶ。事務所スタッフだった高校の後輩(赤楚衛二)の告白を受け入れ、付き合い始めるのです。羽男は2人の恋を応援すらしている。私の早とちった心は、持って行き場を失ってしばらくウロウロしていたのでした。

このあたりから、私の中で「恋のないお仕事バディものがキテいる」という感覚はジワジワと広がりを増していました。そしてそれが確信に変わったのが、年末に放送された日曜劇場『アトムの童』。倒産寸前の玩具メーカーを、2人の天才ゲーム開発者が救うというお仕事ものヒューマンドラマです。

この物語は、父親から玩具メーカーを継いだ富永海(岸井ゆきの)と、天才ゲーム開発者・安積那由他(山崎賢人)、菅生隼人(松下洸平)の3人を軸に展開されていきます。ともに会社の再生を目指す3人は、海を真ん中に腕を組んで歩くほど心が通じ合っています。しかしこの、2人の男に一人の女という『タッチ』方式。どちらを選ぶ……? と、昭和生まれ平成育ちの私は勝手に困ってしまったのですが、これも完全なる杞憂でした。3人の間に恋は全く生まれず、最後までお互いの選んだ道を尊重し応援するという、対等な人間関係を貫くのです。

 

お仕事ドラマで頑として恋が生まれない理由とは?


このように、令和のお仕事ドラマは頑ななまでに恋が生まれません。「この状況ならさすがにちょっとは意識するでしょう」という場合でも、絶対に。これほど明確に仕事と恋愛が線引きされるようになったのは一体なぜなのか? その理由を考えてみるに、遅いながらも職場で女性の「人」としての地位向上が進んでいる、ということが言えるのではないかと思ったのです。

かつて職場での女性といえば、男性社員のサポートであったり、お嫁にいくまでの腰かけ、というイメージが強かった。それゆえ女性は、どうしても戦力というより花嫁候補として見られがちでした。それがドラマにおいても、男女が仕事すれば基本は恋が生まれる、という描き方につながっていたのではないでしょうか。

でも時代は変わりました。女性が働くことは当たり前になり、それとともに戦力としても当たり前の存在になっていった。そこに、“お嫁さんとしてふさわしいかどうか”は必要なくなったのです。