誰の人生にも「物語」があります。
人は、成仏できない物語があると辛い気持ちになり、前向きな物語を描けないと落ち込んだりモヤモヤしたりします。
この連載では、心理学者でキャリアコンサルティング技能士の杉山崇先生が、「物語」という名のライフキャリアを整える方法を皆さんにお伝えしていきます。
突然ですが、『死ぬまでにしたい10のこと』という映画をご存知ですか?
2003年のカナダ・バンクーバーを舞台にした映画です。
主人公は23歳の女性。原題は、My Life Without Me、「私の居ない私の人生」です。
切なさに涙する映画ですが……
ちょっと可愛げの残る邦題と比べると、原題はなんだか切なさが溢れ出るような印象がするのは私だけではないでしょう。実際、かなり切ない映画です。
思い出すだけで泣けて来るので、私は1度しか見ていません。ですが、決して忘れられない映画の一つになっています。
少々ネタバレになりますが、概要を紹介させてください。
主人公のアンは甲斐性のない夫と二人の娘を持つ23歳。ある日、「あと2ヵ月の命」と余命宣告されます。
そして彼女は誰にもそのことを言わずに、「死ぬまでにするべきこと」という10項目のリストを書き出します。そして、その10項目を一つ一つ実現させていくのです。
中には夫と娘たちのこの先の幸せを作り出すための項目も(ネタバレがすぎるので、この内容は秘密です)。
アンの命が尽きる直前、この項目が実現しそうになります。アンは身動きが取れない状態で、夫も娘たちも楽しそうにしている様子を見ています。この光景がこの先の「My Life Without Me」であることを祈りながら、死を受け止めつつ静かに目を閉じるのです。
『死ぬまでにしたい10のこと』Huluで配信中 ©2002 El Deseo D.A.S.L.U.& Milestone Productions Inc.
アンは不幸だったのでしょうか?
さて、あなたのお気持ちを暗くするかもしれないお話をしてしまってごめんなさい。でも、このお話を通してあなたに考えていただきたいことがあるのです。
それは、アンは不幸な死を遂げたのか……、ということです。
もちろん、アンは余命2ヵ月を喜んで受け入れたわけではありません。23歳で小さな娘たちを残してガンで亡くなる……。仮にこれがあなたの人生であったらどうでしょうか。不幸を嘆きたくなるのではないでしょうか。
ただ、アンはその2ヵ月の中でただ死を待っていたわけではありません。その中で自分にできることを自分で定め、それを一つ一つ実現させていきました。
そして、愛する夫と娘たちの幸せを夢見ながら逝くことができたのです。あなたはどう思いますか? アンは不幸だったのでしょうか?
不幸と幸せが織りなすマーブル模様
この答えはきっと難しいと思います。もし、あなたを悩ませたりしたらごめんなさいね。
でも、大事なことは、アンはささやかながら達成感を持ちながら目を閉じたということです。
きっと本当はもっと夫や娘たちと一緒に居たかったことでしょう。ですが、それは叶いません。でも、夫や娘たちの幸せな展望とともに逝けたのです。母として、妻として、大切な人を幸せにするという目的は叶ったのです。
このことが、あなたの中でも「アンは不幸だ」とシンプルに言えない大きな理由となっていることでしょう。そうなのです。アンは自分が定めた物語を自分でコンプリートさせて亡くなったのです。
もちろん、「アンは幸せだ」ともシンプルに言い切れないでしょう。でも、「不幸だ」ともシンプルに言えません。
まるで不幸と幸せがマーブル模様を織り成すかのようなこの映画、もし機会があったらぜひ御覧ください。なお、感想には「退屈な毎日が幸せだと気づかせてくれた」などのポジティブな声と、「アンと自分を重ねてとても苦しくなった」などのネガティブな声の両方があります。あなたのハートがどう感じそうか、少し覚悟をして観てもらえたらと思います。
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