『おっさんずラブ』を機に始まったBLドラマブームとの違い


そんな『美しい彼』の丁寧過ぎる恋愛心理描写を見ていて、ふと頭を過ったのは、「ああ、BLドラマもここまできたか」という感慨に近い思いでした。なぜならこの作品はそれぐらいナチュラルに、ただ恋愛を描くことしかしていなかったからです。

BLドラマの浸透をけん引した存在といえば、やはり2018年に連ドラとして放送された『おっさんずラブ』でしょう。これまであまりモテない人生を歩いてきた春田創一に、突然モテ期が到来した。が、その相手はなぜか男性ばかり……、という春田の戸惑いをコミカルに描いてドラマは大ヒット。この後シーズン2、さらには映画も作られるなど、まさに『おっさんずラブ』旋風を巻き起こしました。

このドラマは、春田の戸惑いと同時に、春田の恋愛を真剣に描いたことも支持された大きな要因でした。このヒットを機に、恋愛心理にフューチャーしたBLドラマは一気に一大ジャンルを確立します。人の心の声が聞こえるようになった主人公が、同期エリートが自分のことを好きだと知って戸惑う様を描いた“チェリまほ”こと『30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい』、大人ゲイカップルの日常と食卓を淡々と描いた『きのう何食べた?』、高校のクラスメイト同士の、勘違いから始まった恋を描いた『消えた初恋』などなど……。どれも男性女性関係なく、自分を投影しながら見られる感情描写が多く描かれていました。

 

コミカルなBLドラマが意味するものとは


ただこれらの作品が『美しい彼』と決定的に違ったのは、そこにコミカル要素が存在していたことです。たとえば『おっさんずラブ』は、たしかにずっとモテたいとは思ってきたけどそれが男性とは……という、主人公の望んでいなかった方向にどんどん展開していく様が、何ともリズミカルで面白かったものです。『チェリまほ』も然りで、主人公がオロオロする可愛さもヒットの要因の一つだったのではないでしょうか。

しかしコメディというのは、厳密に考えてみると、一般的とされている言動や形態と違う様を描いているから面白い、ということでもあると思うのです。つまり、男性が男性を好きになることは一般的ではない、ということが大前提。それゆえどの作品も、大なり小なりコミカルに描かれている以上、それはあくまで“異なもの”であることを示していると言えるのではないか。ド直球で恋愛だけを描いた『美しい彼』を見て、ふとそんなことを考えてしまったわけです。