恋愛ドラマではなく、恋愛の「押し付け」が嫌なだけ


恋愛するのが当たり前、恋愛はいいこと。こうした風潮って、本当に空気みたいに“そこかしこに充満している”んです。

こう書くと、「恋愛しない人って恋愛コンテンツ全てが嫌なの?」と思われそうですが、恋愛コンテンツそのものではなく、恋愛至上主義を押し付ける風潮が苦手なのです。「恋愛に興味がないなら、恋愛ドラマ見ないでしょ?」とも言われますが、警察や医療に興味がなくても刑事ドラマや医療ドラマを見るように、普通に見ます。

ともこがあいこの恋愛相談にのるように、筆者も友達の恋愛相談にはよくのります。重ねていうと、恋愛の話が苦手なのではなく、「恋愛は人生に必須でしょ?」という決めつけに「ウッ」となるんですよね。

先ほど触れた岡田さんと福田さんの件でも、メディアの取り上げ方には多くの疑問の声が上がりました。さらに昨今では“恋愛ドラマ”に対しても、「むりやり恋愛要素を詰め込みすぎ」「本題が恋愛に邪魔されている」「恋愛を入れておけば視聴率がとれるという考えは古い」といった声も聞こえてくるようになりました。

この世は「恋愛と不倫」でできている?!“恋愛至上主義”なこの社会で『今夜すきやきだよ』が教えてくれること_img0
©︎谷口菜津子・新潮社/「今夜すきやきだよ」製作委員会

そんな世の中で、『今夜すきやきだよ』のように、恋愛至上主義に違和感を持つ人がドラマに登場するだけで、少しほっとする自分がいます。

 

「恋愛と不倫」にあふれた社会で、安らげる場所をくれる作品


ドラマも音楽も恋愛、恋愛、恋愛……この世は「恋愛と不倫」でできてるんじゃないか? とさえ思えてくる社会で生活していると、「あぁ、自分って本当に世間と違うんだなぁ」という、何とも言えない感覚がボディブローのように効いてくるんですよね。あえて言葉にするなら、お呼びでない感じ、疎外感とでもいいましょうか。

『今夜すきやきだよ』は当たり前を飲み込まなくていい。違和感を大切にしていい。そう言ってくれるようなドラマです。

この世は「恋愛と不倫」でできている?!“恋愛至上主義”なこの社会で『今夜すきやきだよ』が教えてくれること_img1
©︎谷口菜津子・新潮社/「今夜すきやきだよ」製作委員会

原作者の谷口菜津子さんの「いつか『こんな時代もあったんだね』と言われるようになってほしいです」という言葉のように、「恋愛至上主義がきっつい時代もあったね~」なんて言える時が来てほしいなと思います。

つい最近、荒井勝喜首相秘書官が「(同性婚カップルが)隣に住んでいたら嫌だ。見るのも嫌だ。秘書官もみんな嫌だと言っている」など、複数にわたる差別的発言をしたことが大きな問題となっています。

冒頭で触れたように、私たちは本来、相手のことを完全に理解はできなくても、共存することはできるはずです。でも、理解できない存在を否定したり、排除するような発言をしたりすることで、それができなくなってしまいます。

よく、多様性というなら、特定の層を受け入れたくないという意思表示や差別発言も多様性として認めろ、なんていいますがそれは違います。誰かを排除したり、攻撃したりする言動は、全ての人達が共存する社会を破綻させるものです。多様性のある社会を守るために、差別発言はあってはいけないのです。

この社会には自分の当たり前や前提は、他人にも当てはまるとは限らないという想像力と、たとえ思想などが違っても、攻撃したり排除したりしない、そんな姿勢が必要なのだと思います。

そして自分の当たり前や前提は、他人にも当てはまるとは限らない、という想像力が、この社会には必要なのかもしれません。

<番組情報>
テレビ東京ドラマ24
『今夜すきやきだよ』

毎週金曜 深夜0時12分スタート
Paravi&ひかりTVで配信/TVerで見逃し配信中

「今居る場所で自分の幸福、自分たちのかたちを貫く」。恋愛体質の“あいこ”&アロマンティックの“ともこ”の共同生活。日常生活に当たり前のようにあるジェンダーロールや、婚姻制度、セクシュアリティにまつわる生きづらさへ立ち向かうあいことともこの姿を、おいしいお家ご飯を通して紡ぐ。第26回手塚治虫文化賞新生賞を受賞した、谷口菜津子・著、新潮社コミック原作の『今夜すきやきだよ』をドラマ化。


文/ヒオカ
構成/金澤英恵

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