「後悔先に立たず」というものの、人生は無数の選択の連続であり、長く生きていれば、「あの時別の選択肢を選んでいれば……」と悔やむことは誰にでもあるのではないでしょうか。とはいえ、再び過去に戻ることはできず、どんどん年老いて、やがては死を迎えるのみ。現在、モーニングで連載中の『18=80(エイティーン エイティ)』では、現在80歳で肺がんを患っているものの、いまさらやりたいこともないと達観していた老女が、なぜか18歳へと若返っていて……、という人生やり直しストーリー。彼女の奮闘ぶりを通して見えてくるものとは?


80年も生きてきたのだから、「今さらガキになりたくねえよ」


飴屋幸子は現在一人暮らしの80歳。自活できているものの、若い頃と違って体の自由がきかず、耳も遠くなってきています。

 

とはいえ、道がわからなければ親切に教えてくれる人はいるし、重い荷物を持っていれば助けてくれる人もいて、「老人やるのも悪くない」と今の状態を受け入れています。夫の善哉(よしや)にはとうの昔に先立たれ、今は隣のアパートに住む、国立大学で准教授を務める数学者の胡桃(くるみ)仙太郎との夕飯の一時がささやかな楽しみとなっています。

 

仙太郎との出会いは半年前のこと。彼が拾った野良猫が幸子の家の庭に紛れ込んだことがありました。仙太郎は猫を捕まえようと庭に忍び込んだところ、幸子に見つかってしまいます。しかし、猫同様に仙太郎がガリガリにやせていたのを見かねた幸子が「うちに来い なんか食わせてやる」と食事を作って食べさせたことから交流が始まったのです。

 

この日の夕飯での話題は、幸子が昼間に受けた、小学生の訪問インタビュー。「戦争を知っている人に話を聞こう」というもので、幸子はまだ幼かったのですが、子供時代はとても貧しくて虫を食べたこともあった、といったことを話していたのです。話を聞いていた小学生に「いま子供に戻れたら何がしたい?」と聞かれたものの、幸子の答えは「今さらガキになりたくねえよ」。80年も生きてきたのだからやりたいことはないし、ヘビースモーカーで肺ガンを患っている幸子は、今さら、というのが正直な気持ちだったのです。
 

死が間近に迫って、はじめて気づいた思い。


そんなある日、幸子は風邪をこじらせて肺炎になってしまいます。即入院の憂き目に遭いますが、夜中に苦しくなった時に思い出したのは、仙太郎にもらったエンディングノートのこと。エンディングノートとは、自分の人生を振り返りつつ、亡くなった時やその後にどうしてほしいか希望を記し、必要な連絡先などを書き留めておくものです。幸子は「やりたいことリスト」というページで、「空襲のときに助けてくれた男の子が生きていたらお礼を言いたい」「昔、ケンカ別れした友達の顔を拝みたい」「もう20年も音信不通の息子を探したい」などと綴っていきます。その時、ふと気づいたのは、自分がやり残していまやりたいと思ったのは、全て人に関係するもの。80年もの時間がありながら、大事な人に会うのを避けてきた、臆病な自分がいることに気づいてしまったのです。

そんなことを思い出している時に、幸子の容態が急変。元気な時はもう年寄りだからと達観していた幸子でしたが、まだ会いたい人がいることに気づいてしまった幸子は、死の間際になってはじめて「あたしは生きたい」と強く願ったのでした。

 

そんな幸子の今際の際の願いもむなしく、翌朝、医師は臨終を宣告します。病院にかけつけた仙太郎は泣くことしかできませんでした。一旦、医師や看護師、仙太郎が病室を出た時のこと、窓の外から「新しい体をあげる だからあの子を支えてやって」という不思議な声が響き渡ります。そして、仙太郎が病室に戻った時、ベッドに横たわっていたはずの80歳の幸子が、なぜか若い女性の姿になっていたのです。

 

にわかに信じがたいことですが、体は推定18歳に若返り、肺ガンも消え失せ、抜けてしまった永久歯もすべて生えそろっていました。80歳になって「すべてが終わる日」を待つだけだと思っていたのに、急に若返った幸子を待ち受けていたのは、62年分のギャップ。今まで使えていたシルバーパスは使えないし、通っていたデイサービスでは帰ってくださいと言われてしまう幸子。今まで着ていた洋服や下着も使えないので、全て買い換えるしかありません。携帯はガラケーだった幸子は最新式のスマートフォンを購入し、仙太郎からイチから使い方を教えてもらうところから始めることに。
 

人生再始動、幸子のたどり着く先は?


戸惑うことの連続ではありますが、一つずつできることが増えるたびに、80歳の幸子が年寄りだから仕方がないと諦めていたものの、実はそれは“心の老化”だったことに気付かされる幸子。そこから幸子の人生が再始動します。

幸子が若返ったことで、周囲の人たちとの関係性が大きく変わっていきます。また、エンディングノートに書いていた、20年前から音信不通の息子との再開も気になるところ。若返りを目の当たりにした仙太郎だけは変わらず接してくれていますが、この仙太郎にもどうやら秘密があるようです。

若返って人生やり直せるといっても、「また何十年も生き直すの?」と考えると、なかなかにヘビーかもしれません。また、体だけ若返ったところで、時代とのギャップで苦労するというのも目からウロコでした。でも何らかの奇跡によって若返ったのだとしたら、それをいい方向に活かしたいもの。幸子がいろんなことに戸惑いつつも、持ち前のパワフルさで乗り切っていく姿に元気をもらえます。

現実には若返ることなんてないわけですが、本作を読みながら「自分だったらどうするだろう」と想像するのは自由。そうやって考えているうちに、幸子のように若返ることはできなくても、いまの自分にだってできることはたくさんあるのでは? と思わせてくれます。1月23日に単行本1巻が出たばかり。本作が“心の老化”を抑えるいい薬になるかもしれません。

 

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『18=80(エイティーン エイティ)』
岩渕竜子 講談社

飴屋幸子、80歳。楽しく穏やかに過ごす老後の日々。しかし、今際の際に胸を埋め尽くしたのは、会うべき大切な人たちに会わないまま死んでいく自分の臆病さへの、強い後悔だった。「まだ会いたい人がいる。あたしは生きたい。」だれがその思いを叶えたのか、幸子は18歳へと突如若返り、覚束ない足取りで第2の人生を歩み始める――。