最近ネットやテレビ番組で、犬や猫などのかわいい動物コンテンツが増えている気がします。みんな疲れていて癒しを求めているのかなと思いますが、彼らと共に暮らしていればいつかは訪れる「最期」。それは看取る家族にしかわからない、「かわいい」以上の感情があふれる時間です。老犬の看取りの日を描いたオムニバス『老犬とわたし〜妹は64歳になりました〜』が1月13日に発売されました。
第一話の老犬は、シェットランドシープドックのメイたん。主人公が高校生の時に家に来たのですが、子犬の頃から老成していたワンコでした。
メイたんは、学校生活があまりうまくいってなかった主人公に寄り添い、さりげなく慰めてくれる犬でした。
時は流れて社会人になると両親が離婚し、静かになった家。家族みんなで囲んだ食卓が懐かしいけれど、メイたんはごろんとお腹を見せてくれて、必死に慰めてくれました。主人公が28歳になった時、メイたんが人間よりも早く年老いてゆくのに気づきます。毛が白くボサボサに。
そんな中でも、散歩中に振り返って相変わらず飼い主の自分を気にかけてくれる姿がいじらしく、長生きしてほしいと願っていたのですが、メイたんとの別れはすぐ近くに迫っていたのでした⋯⋯。
本作に登場する5匹は、家族を癒やすだけでなく時に救う存在でした。子どもが巣立ち「母」としての役割を失った妻に子どものように懐き、再び生きがいを与えてくれるトイプードル。仕事に出ている間、ずっと玄関で待っていたと知って愛おしくなるシーンです。
慣れない移住先での気負いをほぐして気楽に生きることを教えてくれるラブラドールレトリバーとスタンダードプードルのミックス、耐える妻の代わりにモラハラ夫に吠えるシーズー、孤独な鍵っ子の遊び相手のコーギー。人間たちは彼らがいつまでも変わらずそこにいると思っていました。各サブタイトルを見ると、老犬たちの人間に換算した年齢と、兄妹や娘、息子という表現がされています。飼い主にとってはペットではなく、家族だったのです。でも、犬たちは人間よりも早く歳をとって、先に亡くなってしまう。
読んでいると涙がぼろぼろこぼれてくるのは、彼らが人間よりもずっと早く老いてゆくことや、最期を見届けてあげることのせつなさが描かれているから。こんなセリフも。
これから自分の子どもを看取らなきゃいけないんだわ⋯⋯
子どものように可愛がっていたのに、気づけば自分の年齢を追い越して、看取らないといけない。頭ではわかっていても、目の前で「わが子」が弱ってゆく様子を見るのは辛い。でも、その辛さから目を背けず、愛犬が息を引き取るまでをしっかり記しているのです。
読み終えるとわかるのは、虹の橋を渡っても彼らは人のそばにいてくれるということ。本作の老犬たちは、飼い主さんたちの心にずっと棲み続けて、頑張って生きていくためのエネルギーを与えてくれていました。
そして、人間の気持ちも好転させていました。言えずに抱えていた悩みや怒りを犬たちに慰めてもらった登場人物たちは、みんな晴れ晴れとした表情をしています。時には人間たちに、自分自身よりも犬のことを思いやる気持ちを芽生えさせてもくれるのです。ペットロスという言葉がありますが、落ちこむ人間を立ち直らせてくれるのもまた、彼らとの温かな思い出なのです。
言葉は通じなくても、最期の一日まで惜しみなくたくさんの愛と感情を人に与えてくれる犬たち。なんていじらしいのでしょう。全ての老犬たちへ、人よりも短い一生を、人と共に生きてくれてありがとう。
【漫画】『老犬とわたし~妹は64歳になりました~』第1話を試し読み!
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『老犬とわたし~妹は64歳になりました~』
青色 イリコ (著)
犬は人間よりも早く歳をとる。どんどん毛並みが変わり、目も白くなっていく。 そんな変化とともに生きた5組の老犬と飼い主による、最期の日々を描いた感動のオムニバスエッセイ。
作者プロフィール:
青色イリコ
『老犬とわたし〜妹は64歳になりました〜』(講談社パルシィ)、『その別れ話、聞かせてください。』(講談社パルシィ)『マンガでわかる中学社会 歴史年代暗記』(学研プラス)などが代表作。
Twitterアカウント:@manss_iro
構成/大槻由実子
編集/坂口彩
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