2022年2月にロシアによるウクライナ軍事侵攻が始まり、今もまだ攻撃が続いています。世界各地では宗教や民族、イデオロギーの対立などにより、さまざまな紛争が勃発。一方で日本は今年で戦後78年となり、平和な日々が続いているように見えますが、この日常が永遠に続くとは限りません。ウクライナ侵攻がきっかけで、平和とは何かを考えさせられた人も少なくないのではないでしょうか。現在、モーニングで連載中の『平和の国の島崎へ』は、幼少期に国際テロ組織に拉致されて工作員になった男性が、30年の年を経て故郷である日本に戻り、平和な日常を取り戻そうとします。しかし、そう簡単にはいかず……。

テロ組織に拉致された少年が、30年ぶりに日本で取り戻した日常は永遠か。『平和の国の島崎へ』_img0
『平和の国の島崎へ』(1) (モーニング KC) 


過酷な半生を背負った中年、日常を取り戻す。


30年前、国際社会と対立する国際テロ組織LEL(経済解放同盟)が、羽田発パリ行きの飛行機0457便をハイジャックする事件がおきました。同機はLEL勢力圏内の中東に強制着陸され、殺害を免れた乗客はLEL工作員として徹底的な洗脳や訓練を施されました。その中に、当時9歳の島崎真悟という少年がいました。

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30年後の現在、39歳になった島崎の姿は日本にありました。黒縁メガネに穏やかな印象の中年男性で、地味で目立たないように見えますが、幼少期にLELに拉致されて戦闘工作員として過酷な戦闘に従事させられていたこともあり、漢字を読むことができず、日本語の会話もどこかぎこちない様子。

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見た目は人畜無害そうですが、島崎には常に警察の監視がついていました。

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LELのとある軍事作戦に参加したのを最後に、姿を消していた島崎は組織からの脱出に成功。今は同じ境遇の仲間とコロニーと呼ばれる場所で共同生活しながら、日本の生活習慣に馴染もうとしていました。絵を描くのが好きだった島崎は、知り合いの紹介でとあるマンガ家・川本マッハのアシスタントとして働くことに。

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マンガ家アシスタントで、意外なスキルが評価されて……。


アシスタント初日の初仕事は、原稿の鉛筆線を消すこと。プロのマンガ家が描く線に感銘を受けながら丁寧に消しゴムを使う島崎。そんな時、戦闘シーンを描いていた川本に、「ちょっとモデルになってもらえませんか?」と頼まれます。島崎は、ホウキやドライヤーを銃器に見立ててポーズを取ります。道具こそ違えど、長年体に染み付いた“本物”の動きは川本を圧倒。ミリタリー好きと勘違いされ、マンガに登場する銃器について質問を受けた島崎は、これまた的確に答えます。

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川本に感謝された島崎は、憧れていた日本での暮らしに馴染めるか不安だったものの、自分にも手伝えることがあってうれしいと素直な気持ちを口にします。その言葉を温かく受け止める川本と先輩アシスタントのカオリ。

 

少し自信を取り戻した島崎は、コロニーに帰宅後、マンガ家のアシスタント業務とは別に、新しい仕事を見つける決意を仲間に伝えます。「あのばしょのことを忘れるためにも ここでいばしょをふやさなきゃ」という島崎の言葉からも、彼が30年間どれだけ過酷な生き方を強いられていたかが垣間見えます。

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翌日、川本の仕事場に行ったところ、川本は顔や手にケガを負ったまま原稿に向かっていました。昨晩、カフェで原稿を見直すつもりで持って仕事場を出たところ、ひったくりに遭ってしまったというのです。締め切りが迫っているため、川本とカオリが必死で原稿に向かっており、島崎も手伝うことに。

一段落したところで、夜食の買い出しをしてくると申し出た島崎は仕事場を出ます。彼が向かったのはコンビニではなく、彼を四六時中監視している警察官のところでした。車の中の警察官に川本の名刺を差し出し、「この番号のスマホのいちじょうほうをていきょうしてほしい」と頼みます。

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ひったくりに遭った川本の携帯電話の位置情報から、ひったくり犯のアジトを割り出して突入する島崎。圧倒的な強さで4人の男を制圧し、原稿と携帯電話を取り返します。

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仕事場に戻った島崎は、「まちのゴミすて場を回ってみつけました」と、川本に原稿と携帯電話を差し出します。汚れて使えないページがあるものの、3人で力を合わせればなんとか締め切りに間に合いそうなことがわかります。「ありがとう! 島崎さん!! 助かったよ!!」と川本に感謝された島崎は、はにかんだ笑顔を浮かべたのでした。


再び戦場に戻るまであと1年。


このように、卓越した戦闘能力を駆使しつつ、過去のトラウマからなんとか脱却し、平和な日常に溶け込もうとする島崎の奮闘ぶりを応援していきたいところですが、凄惨な過去とはそう簡単に決別できそうにないようです。

ひったくり犯を病院送りにしてしまったことでヤクザに目をつけられたり、LELからの暗殺部隊に狙われたりと、“普通の日本人”には程遠いのが現状。物語では、島崎と同様に、組織から逃れてきた元工作員たちの過去や苦悩も描かれます。島崎たちに平穏な日常をと願わずにはいられないのですが、実は1話目から、彼がやがて戦場に戻ることが明示されています。

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マンガ家アシスタントのカオリや、島崎が新たに働くことになった喫茶店のマスター(カオリの父)など、コロニーの仲間以外にも人間関係が広がっていき、島崎は自分にできることを少しずつ増やしていこうとしています。平和の国・日本で生まれたにも関わらず、ハイジャックに遭遇してしまったことから運命を大きく変えられてしまった島崎は、難を逃れて戻ってきた日本でまたヒリヒリするような緊張状態に身を置かざるを得なくなります。そして、なぜ島崎は約1年後に戦地に戻らざるを得なくなってしまうのか? 

見た目は穏やかで素直なのに、飛び抜けた戦闘能力を持つという個性的なキャラクター・島崎からとにかく目が離せない! ストーリーも、サスペンス要素満載のアクションものでリアルさも半端ない! 読み手も毎話緊張を強いられます。また、テロに巻き込まれて人生を狂わされた上に、心にも大きな傷を負わされた島崎をはじめとする元工作員たちを見ていると、平和とは何かを改めて考えさせられます。12月22日に単行本1巻が出たばかり。私が今、モーニング本誌で真っ先に読んでいる作品で、個人的に2023年の次に来るマンガの一つになると! 睨んでます。

 

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『平和の国の島崎へ』
濱田轟天/瀬下猛 講談社

幼少期に国際テロ組織に拉致され、戦闘工作員となった男・島崎真悟。30年の時を経て、組織からの脱出に成功した彼は故郷である日本に帰ってくる。島崎は新天地で平和な日常を手に入れられるのか――。原作は大型新人・濱田轟天、作画は『ハーン‐草と鉄と羊—』『インビンシブル』の瀬下猛で贈る、日常と戦場の狭間で生きる男のアクション譚!

 

作者プロフィール
濱田轟天 (原作)はまだ・ごうてん

2022年8月より『平和の国の島崎へ』原作として連載デビュー。

瀬下猛 (漫画)せしも・たけし
1983年生まれ。新潟県出身。
2017年10月より、読むとショートを守りたくなる漫画『ショート黒松』(全1巻)を短期集中連載。同年12月より源義経がチンギス・ハーンになるまでを描いた『ハーン ―草と鉄と羊―』 を全12巻連載。2021年2月よりプロラグビー漫画『インビンシブル』(全5巻)を連載。

 

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