家探しに表れる人生の価値観


転居に当たり、正勝さんは必ずしも家を購入しなくてもいいと考えていました。正勝さんのご実家はずっと賃貸だったため、その自由さを知っていたのと同時に、高額なローンを背負うことにためらいもあったそう。また、購入するにしても、通勤時間は長くてもいいから郊外で、広々とした一戸建てを希望しました。

「マンション育ちだったので、持ち家にするならば、太陽が降り注ぎ風が吹き抜ける、広い家に憧れがありました。予算に限りはあるので、都心からずっと離れてもいいかなと。

ところが妻が集めてきた資料を見て仰天。並んでいたのは千代田区、文京区の70~80平米のマンション。今から10年ほど前だったので、現在ほどの高騰はなく、そのエリアのコンパクトなマンションを5000~6000万円で探すこともできました。とは言え、我が家の世帯年収からしたら背伸びだし、何よりそんな大金を投じて狭さを我慢してまで、都心に固執する理由がわかりませんでした」

美佳さんは「共働きなので職場と家が近ければ近いほどいい。家を買うならば地盤がよく、資産性が落ちないエリアを。子育てするのだから環境が大事、塾や習い事の選択肢がたくさんあるところにしたい。マンションの広さや築年数は妥協できるね」とスラスラと主張したそうです。 

ここでこちらのご夫婦の経歴をご紹介しましょう。正勝さんは、東京の下町で育ち、中学まで公立。高校はサッカーの強豪校である私立高校に進学し、そのまま部活と学校の勉強を頑張り、推薦で都内の私立大学に進学しました。

「家は都心一択、中学受験は絶対条件」笑顔で譲らない私立育ち妻の狂気。公立推し夫の反論とは?_img0
 

一方美佳さんは、東京の文教地区に育ち、中学受験をして名門私立中高一貫校に進学、大学受験で正勝さんと同じ大学に進学しました。

 

ご夫婦の「スペック」は、一見さほど変わりません。そのため、家を買う、子育てする、という局面になるまで価値観が違うとは思いもしなかったといいます。自分たちは「似た者夫婦」だと思っていたそうです。

「妻は、穏やかに、しかし断固として主張を変えませんでした。いずれ中学受験をするから、塾や習い事の選択肢が豊富で、意識の高い都心に住むべきだと言います。通学や通塾の負担は少ないほうがいいから、と。彼女は小さい頃から塾や学校に電車で通っていたので、子どもにはその苦労が少ないことを望んだようでした。

でも正直、僕からすれば、『え? 中学受験? お金がものすごくかかるでしょう? そして僕の家への夢は一体……』という感じです。そして僕は中学までは公立がいいと思っていました」

お二人の主張の違いを、話し合い不足、と片付けるのは簡単です。すり合わせるのもさほど難しくはないとも思えました。しかしお話を伺うほどに、公立がいいと主張する正勝さんには実体験に基づく『確信』があり、易々と変更することはできないのだとわかってきました。