さてそんな中で今回の「キング・オブ・たわごと」は、木原さんの「出生率がV字回復したら、子供予算は早く倍増する」というものです。ここにこれまでなぜかマスコミが全然突っ込まない事実が集約されていると思うのですが、結局のところ政府が言う「少子化対策」は、すでに子供を育てている人に向けた「子育て支援」でしかないということです。働き方改革(おそらく男性の育休取得と子育てへの参加を促すもの)とばら撒き式の子育て支援だけすれば、出生率が異次元的に「V字回復」すると思ってるような口ぶりには開いた口がふさがりません。
そもそも、たとえ今の出生率がかろうじてやや上向きになったとしても、問題は全くもって解決しないとわかっているのでしょうか。というのも出生率(合計特殊出生率)というのは、出産年齢の女性(15歳~49歳)を対象に「一人の女性が生涯で産む子供の人数」を示す統計学上の指標ですが、出生数自体が70年代からずーっと減り続けている、つまり出産年齢の女性の数が減っていってるわけで、出産年齢の女性全員が2人ずつ(男性=人口の半分は出産ができないので)産むくらいでようやく人口は横ばい。出生率はこれで「V字回復」でしょうが、人口減少は女性全員が3人とか4人ずつ産まない限りは「V字回復」なんてしません。
つまり何が言いたいかというと、日本の現状では「いろいろ考えたら二人目は無理(既婚)」という人だけでなく、「産みたいけど、いろいろ考えたら無理」とか「産む気ぜんぜんナシ」と考えている人が「産みたい」「産める」「産んでもいい」と思い、実際に産む社会にしなければ、少子化対策にならないということです。
じゃあ「産むのは無理&産む気なし」と考える女性たちはどんな状況にいる人なのか。おそらくキーワードは「未婚/非婚」と「仕事優先」です。
「未婚/非婚」で子供を産まない理由で大きいものは、「金銭的余裕がない」「婚外出産、婚外子への法律上の差別」「婚外出産、婚外子への社会的な偏見」、だけど「相手がいない」もしくは「(性別的役割分担や夫婦同姓などを強いられる)結婚に魅力を感じない」といったところでしょうか。「仕事優先」な人が子供を産まない理由は、「キャリアの断絶」「周囲の協力が得にくい」「(結婚や子育てにおける)性別的役割分担がイヤ」「経済的自立が困難になる」といったあたりでしょうか。もちろんこれらの問題は、ある部分では「二人目は無理」と言う人にも共通しているように思います。もはやお気づきの方も多いと思いますが、その根本に横たわっているのは、父権主義的社会の価値観、家族観。つまるところ性差別に起因する不安です。
こうした女性の主張を、特に政治を動かしている世代の男性たち、「壺」を含む宗教関連の支持母体を持つ政治家たちは「女がわがまま言いやがって」と思うんでしょう。「女が自分勝手」とか「女は社会のために子供を産むべき」とか「女の社会進出が悪い」とか言うんでしょう。あまりにミミタコで最近では反抗するのもアホらしい。でも言っておきますが、そうやって言えばいうほど、そこにある差別をかぎ取った女性たちは出産からも、さらには結婚からも遠のいていくばかりです。「結婚」という枠組みの中では、妊娠・出産・中絶にまつわる決定権(昨今言われるリプロダクティブ・ヘルス&ライツ)を奪われかねないからです。
出産と子育ては「お金で支援するよ!」「オッケー!じゃあ産むぜ!」と安請け合いできるものではないし、その問題に取り組んですぐに「V字回復」するような類のものではありません。本当に、本気で、少子化対策に本腰を入れるなら、そうした女性たちが安心して出産にできるよう、今の社会を激変させるしかありません。これこそ政治にしかなしえないこと。社会が変わってしまう、とか言ってる場合じゃありません。
前回記事「【JR西日本の立往生問題】「上の判断に逆らえば損をする」...?倫理観が麻痺することの「ヤバさ」について」はこちら>>
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