「スタッフの今日のコーデ」の私服姿にファンの多いエディター・松井陽子さん。記事の中でも松井さんのスタイリングにもよく登場する、「もはや体の一部のよう」という最愛のファッションアイテムの魅力をお届けする連載企画です。

今回松井さんが訪れたのは、ロンハーマンのプレスルーム。東京、千駄ヶ谷の1号店オープン前からロンハーマンをクリエイトしてきたバイヤーの根岸由香里さんにインタビューしました。ロンハーマンというセレクトショップの魅力の根っこにあるもの。ファッションを通してやりたいこと、繋がっていくこと……。ロンハーマンの新たなる試みについて、お話を聞きました。


「幸せを届ける空間であり続けたいから」―――。
真っ直ぐに、未来を見据えた活動に取り組むロンハーマン

Vo.05 Ron Herman ・バイヤー根岸由香里さんを訪れて

ゆかりんご、こと根岸由香里さん。この日のゆかりんごは、私が知っている中では一番のショートヘアでした。チャームポイントのような前髪はそのままで、軽やかなバランスに。とっても似合っていて、可愛い!

「こんにちは!」––– スタッフのにこやかな挨拶が、とにかく似合う場所。『ロンハーマン』にそんな印象をお持ちの方も多いのではないでしょうか。

お天気の良い日に、まだ幼かった息子を連れてぶらりとショップを訪れていていたのは、キッズフレンドリーで、いつ行ってもなんとも居心地がよかったから。それは私だけでなく、息子にとっても同じだったようです。

そしてシーズンの最中に覗く機会が一番多いのもやっぱりここ。「きっと何かあるだろう」という期待感があって、行ったらやっぱりワクワクできる何かに出会えて……。なんとなく前に進まなくなってきたおしゃれをリフレッシュさせてくれるのもやっぱりロンハーマンなのです。

ロンハーマン逗子マリーナ。ロンハーマンのショップの中でも私が一番好きなのがこちら。大きな窓からの眺め、キラキラとした光。そして、洗練された空間。海辺の毎日にちょうどいい気の利いたアイテムが揃っているのも好きな理由です。春から夏にかけてツタも青々として、このアーチを抜けるだけでワクワクします。

今から15年前、「カリフォルニアのロンハーマンが近くオープンする」と当時のプレスの方に聞いた時に、真っ先に当時携わっていた雑誌の編集長に報告しました。30代を中心とする主婦向けの雑誌だったので、まさに読者にピンポイントで刺さるショップになると思ったから。そしてロンハーマンは、私が言うまでもなく、オープンと同時に瞬く間に時代を切り拓いていきました。

そのロンハーマンの仕掛け人としてオープン前から今に至るまで第一線で活躍を続けているのが、バイヤーの根岸由香里さん。初めて会ったのは千駄ヶ谷の第一号店オープニングのレセプションだったような記憶が……。以来、十数年来の知り合いです。「ゆかりんご」という愛称も、その当時からずっと変わってなくて、彼女が結婚し、母親になった今でも「ゆかりんご」のまま(笑)。

私にとって根岸さんは友人であって、さらに特別な人でもあります。夫たちの藍染『LITMUS』からレディースの『My Dearest Blue...』を立ち上げたばかりの時に展示会に来てくれ、「このままの雰囲気でロンハーマンでポップアップをやってみませんか」と声をかけてくれたのがまさに彼女でした。手探りで始めたばかりの藍染のブランドを世に送り出すきっかけを作ってくれ、そしてその後もずっと変わらずに藍染のファンでい続けてくれているのです。

その頃からずっと思っていたのは、謙虚すぎるとさえ感じられる彼女の物腰の柔らかさと心持ちの良さ。そして、信じるものに真っ直ぐ向かう彼女の凛とした正しさ。世界の名だたるメゾンや、老舗のファクトリー、アップカミングなブランドの関係者たちなど、ファッションの重鎮や先端に接しながらも、小さな小さな私のブランドの魅力も嗅ぎ分け、いつくしみ、大切に思ってくれる、そんなウォームハートフルな人なのです。

この連載の5回目となる今回、改めていろんなお話を聞いてみたかった根岸さんとのインタビューが実現しました。ロンハーマンのバイヤーとして今に至るまでの色々、そして今、さらにロンハーマンが描いている未来への色々。ゆっくりとお話を伺う機会に恵まれました。

 


スタートした時から大事にしているのは
「わくわくして、みんなが笑顔になれる空間」

 

この日の根岸さんは、エクストリーム カシミアのニットアイテムをレイヤード。色も組み合わせも自由で、「こんなふうに合わせればいいんだ!」ととても参考になりました。この日私が着ているのは、デミリーとロンハーマンのコラボカーディガン。オーガニックコットンで特別に作ってもらったそうです。インナーのボーダーカットソーも、発売以来定番人気となっているオーラリーとのコラボアイテム。体に心地よくフィットするギザコットンのリブニットです。どちらも春の新作で、優しげで陽気なオレンジがまさに今の気分!

木床に、白い木のルーバーの窓。体が沈んでしまいそうな大きなソファがあるその空間は、まるでカリフォルニアの誰かのお家のような、気楽さと心地のよさ。その空間を包む、ジェンダーレスでどこか洗練された香りにも、思わずうっとり。店内のラックやテーブルにはカジュアルに、そしてランダムにハイブランドのお洋服が並べられ、そのミックス感さえもが自由で、とても新鮮で......。そこに漂う風通しのいいムードにときめき、これから始まる新しいファッションへの期待感に心躍る想いでした。それがロンハーマンの記念すべき日本の第一号店、千駄ヶ谷のショップのオープンの日の記憶です。

写真上・千駄ヶ谷のショップの外観のグリーンも今ではこんなに豊かに。写真下・木の床や壁、一歩店内に入ると、ここが六本木であることを忘れさせてくれるような開放感のあるショップ店内。


「カリフォルニアのメルローズにあるロンハーマンのショップのことは、以前から知っていたんです。どこまでも高く抜けるような青空、海がそばにあって、風には潮の匂いが混じっていて……。初めて訪れた時の衝撃は忘れませんね。ショップのスタッフがとにかくハッピーでとてもフレンドリーで。自由で心地よくて、なんて素敵なところだろう! と感激しました」と根岸さん。

『ロンハーマン』は、ロン・ハーマン氏が’76年にカリフォルニアのハリウッドにほど近いメルローズアヴェニューにオープンさせた伝説的セレクトショップ。彼こそが、アメリカで初めてワーカーのためのデニムをファッションアイテムとして昇華させ提案した人で、ヨーロッパやアメリカのデニムを一挙に並べた”デニムバー”を初めて作ったことでも知られる、カリフォルニアのファッションのパイオニア的存在です。

そのロンさんが掲げたコンセプトは、「すべてのお客様に心地よく買い物を楽しんでもらいたい。お客様の想像力をかき立てる心地よい刺激を与えたい」というもの。それは日本のショップにも受け継がれ、実店舗が24にオンラインショップを加えた、合計25のショップが動いている今もなおそのコンセプトは大切にされているそうです。

「ロンさんは折に触れ、 ”ファッションとは愛にあふれ、刺激的で楽しく、自由であるべき” と話されていて。心地よくリラックスした空間で、ショップを訪れるすべてのお客様に心からファッションを楽しんでいただきたい、そんな想いを私たちもとても大切にしています」。

確かに、納得です。少しエッジの効いたセンスのよいセレクト。同じ商品であってもブランドのショップで見るのと印象が異なるのは、テイストもブランドもミックスさせた自由な提案にあるのでしょう。そして、ショップスタッフの気持ちの良い接客や挨拶、声をかけてくれる間合いも含めて、人とモノが繰り広げるその空間は、ドラマがあって、陽気で優しくて……。そのすべてが特別なのに親しみやすい。空間を包み込む空気感そのものも含めて『ロンハーマン』だなと、私もづくづく思うから。