「スタッフの今日のコーデ」の私服姿にファンの多いエディター・松井陽子さん。記事の中でも松井さんのスタイリングにもよく登場する、「もはや体の一部のよう」という最愛のファッションアイテムの魅力をお届けする連載企画です。

「幸せを届ける空間であり続けたいから」――
真っ直ぐに、未来を見据えた活動に取り組むロンハーマン 

前回に続き、ロンハーマンのバイヤーであり、ウィメンズディレクターを務める根岸由香里さんのインタビューをお届けします。ショップオープンから10年経った時の一大決心。いまの取り組み、そして大好きなファッションを軸に見据える未来像。今回もゆっくりとお話を聞きました。

前回記事
人気の仕掛け人が語る「ロンハーマンに行くとワクワクする」理由とは?【バイヤー根岸由香里さん】>>

 


 

Vo.05 ロンハーマンバイヤー根岸ゆかりさんを訪れて(後編)

10年という節目でようやく向き合えた「変わらなければいけないこと」

 

この日の根岸由香里さんのTシャツは「エクストリーム カシミヤ」にかけ合ってようやく実現した“Cotton Cashmere Collection”。コットン70%、カシミヤ30%で、さらりとしっとりと。コットン配合ゆえ、ブランドの代名詞であるカシミヤ100%のものより、より長いシーズン着こなせるという優れもの。後日チェックしたらゆったりしたデザインの”Cuba”は見事に完売していました!

千駄ヶ谷店の1号店の本格始動後、トレンドという潮流を自ら生み出しながら自由に航海を始めたロンハーマン。年を重ねるたびに店舗数は増え、14年目を迎える今年は新たにハワイにもショップをオープンし、オンラインショップも含めると全部で25店舗。まさに順風満帆。その帆はますます大きくなり、風を味方にしながらより悠然と想いのままに大海原を旅しているかのようです。

「改めて振り返ると、オープンから10年目、それが大きな節目となりました。最初の8年はまさに全力疾走。脇目もふらずに走り、その中で仲間が増えていった、そんな感じでした。それから少しずつ、今まで作ってきたもの、自分たちに足りないものを振り返り、こう変わっていきたい、変わらなければいけないよねって、10年というタイミングでようやく振り返って、これから先を考えることができたんです」と根岸さん。

10年目という節目。バイヤーとして、その当時すでにロンハーマンの組織を束ねる立場となっていた根岸さん。これまで積み重ねてきたことを大切にしながらも、新たなる航路を切り拓く決心をすることに。その大きなきっかけとなったのが、全く異なる業種の方と知り合う機会に恵まれたことでした。

「気候変動、その深刻さを知る機会があったんです。ファッション業界は全ての産業の中のワースト2位。その事実を知った時のショックは、それはもう言葉にはできないほどのものでしたね。魂を燃やすように向き合っていた私の中の人生の核であり、小さい頃からの夢であり、憧れであり……。素晴らしいと思って関わっていたファッションのことを全否定されたかのような気持ちになってしまって。お客様に胸を張って幸せを夢を届けてきたはずなのに、裏では地球の幸せな未来を縮めるような活動だった。非常に矛盾していたということですからね。ただただショックでした」。

ともすると自分の人生さえ全否定されたかのような事実を前にして、正直、もうファッションの仕事を辞めようかとさえ考えたのだそう。悩んで、悩んで、悩みながらも、責任ある立場として簡単に投げ出すことはできない。そうして決断したのは「真剣に勉強すること」でした。

「手放してしまって、やめてしまうことも間違いではなかったかもしれません。でも私には、ここまでやってきた自負もあったし、立場も責任もある。そう思うと、やめてしまうことの方が無責任だなって考えるようになったんです。変えていける立場にある、そう思えるんだったら、それをやった方が大きい意味があるなって」。
 

「ファッションを通して実現できるSDGsとは……?」
幸せを提供する場だからこそ、正面から向き合いたい


根岸さんは、まずは手当たり次第、書籍を探しては読み、本の中から人を辿ったりと、少しずつ動きながら学びを深め広げていきました。そして縁がつながってエシカル協会と出会うことに。その講座は、アニマルウェルフェア、農業、電気、金融、水や生物多様性などと様々な方向からエシカルについて学べるものでした。学びながら模索し、そして根岸さんが考えたのは、それをどうロンハーマンに繋げていくか、ということ。

「会社全体を変える原動力にしたい。そう考えたんです。だったら、これは私一人ではだめだ、と。社長と、組織のトップにも同じように講座を受講してもらい、知識を得て、それから会社をどう変えていくかを真摯に議論しました」。

10年を経て、エシカルという羅針盤を得たロンハーマン。そして、大きく舵を切った行き先に見据えたのは、SDGs。持続可能な開発目標であり、持続可能なゴールを目指す会社の実現でした。

「大きなシフトチェンジになると思ったんです。会社を変えることですからね。目標を明確にするために具体的な数字も入れたもので、専門家にも入ってもらって実現目標の公約も作っているんです。CO2削減のためには、突き詰めていくと、この先はお取り引き先の方にも基準をクリアしてもらわないといけないことも出てくるんです。正直ハードルはまだ高いのですが、それでも理解の輪を少しずつ広げながら、実際に行動しながら実現していきたい、そう思っています」。

サステナビリティシフトへの取り組みとして、2021年には、千葉県の匝瑳市にソーラーパネルを設置。「ソーラーシェアリング」の発電施設を新たに開設しました。それは「ロンハーマン匝瑳店」。ウェブサイトをご覧いただければわかるのですが、storeの1つとして並んでいて、「おや?」と目に留まります。1つの店舗として位置付けているところにも愛を感じます。

 
 
高所に設置された ソーラーパネル。その下は農地になっています。不耕起栽培にすることで土壌がCO2を吸収するのでカーボンニュートラルにもつながるという好循環を実現しています。