平穏な日常に潜んでいる、ちょっとだけ「怖い話」。
お隣のあの人の独白に、そっと耳を傾けてみましょう……。
第10話 空港の怪談
「笹本さん、ことの重大さがわかっていますか? あなたの『あいまいな対応』がお客様に重大なご迷惑をかける可能性があったのよ。自分を過信してはだめ。ダブルチェック、トリプルチェックでしょう」
――何も、こんなところでガミガミ言うこと、ないのになあ。
私は空港のバックオフィスで、内心ふてくされていた。インチャージ(責任者)が「鬼の鎧塚さん」とは、今日は本当についてない。
「あとで報告書にまとめてください。トラブルケースとして共有します」
「……はい、申し訳ありませんでした」
ようやくお説教から解放されそうだ。私は長年のグランドスタッフ経験で習得した「最高に申し訳なさそうな顔」でもう一度頭を下げた。
「久美、大変だったねえ。鎧塚さん、相変わらず厳しすぎ。だから最恐グラホって呼ばれて後輩が寄り付かないんだよね。もう54歳らしいよ、空港現場最年長じゃない? 一人だけ制服じゃなくて私服スーツだしさ」
ヨロヨロと無線機を取りに行くと、同期の絵里子がさりげなく横に立って慰めてくれた。
「あーあ、勤続10年、まーだこんなに説教されるのかっていう感じ。後輩の手前、面子があるのにさ。鎧塚さん、容赦ないよ……。まあ、でも私のミスだからしょうがない」
私と絵里子は、当初30人いたこの空港のグランドスタッフ同期の数少ない「生き残り同期」だ。24時間シフト制で体力勝負のこの仕事の平均勤続年数は5年ほど。10年もいればいっぱしのベテランで、最近では叱り飛ばされるようなこととは無縁だったのに。
「いいよいいよ、気にしない! さ、次のゲート、2人で取れるよ! 3分くらい早いけど、もう移動しよ」
絵里子の明るい調子に助けられ、私はうんうんと頷くと無線を持ってバックオフィスを出た。
空港では、「奇妙なハプニング」が、ときどき起こります……。
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