人生は「自分が想像もしていなかったことが突然起こる」
――思いついたアイデアを形にする時、誰かに迷惑をかけないかなとか、プランをちゃんと練らないととか、そんなことを考えてなかなか行動に移せないのですが……何かアドバイスをいただけますか。
バーバラ 私も全然何の準備もしていなかったんです。グループが大きくなるにつれて、思いがけないことがたくさん起こりました。それまでは考えたこともなかった、新しい仕事をたくさんすることになりましたしね。どのくらいたくさんかというと“1万”くらい(笑)? 今日もそうです。3年前のパンデミックの時は、私が日本の出版社でインタビューを受けるなんて、全く想像していませんでしたから。今回の来日では小学校で講演させてもらう予定があるのですが、子どもたちには「アイデアを形にすると、自分が想像もしていなかったことが突然起こるかも!」、そんな人生の面白さを伝えられたらと思っています。
2年間プライベートなし。それでもVFMWを続ける理由
――何万通ものメッセージに返信をしているバーバラさんですが、このプロジェクト以外で、コロナ禍のプライベートではどんなふうに過ごされていたんでしょう。先ほどお母様のお話が出ましたが、一緒に暮らしていらっしゃるんですか?
バーバラ いいえ、私はソロ、つまり一人暮らしです。もし誰かと一緒に暮らしたら、私か、もしくは相手が出て行っちゃうと思います(笑)。一人のペースに慣れてしまっているので。だから時間の使い方も「お好きなように」なんですが、VFMWが始まって2年間は、プライベートらしい時間はほとんどありませんでした。起きたらすぐグループの友人と手分けしてVFMWの返信、インスタント食品をパパッと食べてまたすぐVFMWの作業――そんな毎日の繰り返し。振り返ってみたら、PCもメールも見ない日は10日間だけでしたね。
「(前略)車やバイクの騒音がいつもほどうるさくないので、近所の人たちの生活音がよく聞こえます。自分がこの近所の様子に、生活の力強い息吹、あるいは、ある種の平和さえ感じていることを、我ながら興味深く思い、また、とても驚いています。周りが皆、少し気が抜けている感じが、うれしいですね。まったく、面白い時代になったものです……私たちは、間違いなく、生き残りますよ。」
――Esther Kassoviczさん イスラエル・テルアビブ 2020/4/4
――バーバラさんが、休みなしでもこのプロジェクトを頑張れる理由はなんですか?
バーバラ みなさんが投稿してくれた写真と言葉を世界各国で「本」にしたいという1つめのゴールが叶った今、次のゴールは「VIEW FROM MY WINDOW」の展覧会を開くこと。ベルギーのブリュッセルにある「Atomium(アトミウム)」で、2024年3月から展覧会が始まります。正直、その準備はくたくたになる作業だし、少しは休まないといけないのだけれど、私は完璧主義なところがあるのでそれができなくて(笑)。どうしてもやり遂げたいから、今は「休みたくない!」とさえ思っています。もちろん、このグループも続けていかなくちゃと考えています。世界のどこかでちょっと落ち込んでいたり、つらい思いをしていたり。そういう人たちにとって、VFMWが少しでも、何かいい効果をもたらしてくれたらと心から願っているからです。
『世界の家の窓から 77ヵ国201人の人生ストーリー』
編集:主婦の友社 主婦の友社 1815円(税込)
コロナ禍のロックダウンの中、世界の人々は窓からどんな景色を眺め、どんなことを感じていたのか。Facebook上のグループ「VIEW FROM MY WINDOW」に寄せられたのは、まったく違う国、まったく知らない人の自宅の窓からの景色とコメント。ロバが牛乳配達に出かけるスーダンの窓辺、オーロラが輝くノルウェーの窓辺、窓ガラスに飛散防止のガムテープが貼られたウクライナの窓……。誰かの生活、そして自分の日常が大切なものに思えてくる、静かな感動とイマジネーションが掻き立てられる1冊。「VIEW FROM MY WINDOW」創設者のバーバラ・デュリオさんは、日本版書籍では監修を担当。
取材協力(通訳)/安藤真弓
取材・文/金澤英恵
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