セックスシーン含め自由に演じられた。いいシーンにできたのは専門家たちによる監修が安心をくれたから


今回の作品ではインティマシー・コレオグラファーというセックスシーンなどの「インティマシーシーン」における動きや所作を監修する方が参加されているそう。男性の身体の構造を考えたときに、私たち女性からそのシーンを観ると、とてもリアルに監修されているのが伝わります。

――こういった職種の方が関わることで学んだことや、男性同士、男女とのインティマシーシーンの違いなど、感じることはありましたか?

鈴木亮平さん(以下、鈴木):愛情とか感情の面、または相手を欲しいと思う気持ちとかドキドキする気持ちというのは、僕自身はほとんど違いはないと感じたのですが、おっしゃるように身体の構造だったり、あとは男女の場合と異なり、男性同士の場合はどちらがどちらのポジションになるのかというのも確認する同意が必要ですので、そういうことを確認する一瞬のお芝居も入れようということをコレオグラファーの方が提案してくださったりとか、そういう違いはありました。

鈴木亮平と宮沢氷魚が考える愛の答え「お互いNGラインをわかっているからこそ愛を交わせる」【映画『エゴイスト』】_img1

©️ 2023 高山真・小学館/「エゴイスト」製作委員会

男女間のセックスとは体勢が違うことも含め、当事者の方たちが観たときに自分たちの生活をきちんと描いていると思うように――、それはインティマシーシーンだけでなくすべてのシーンでなんですけど――、インティマシーシーンで専門のコレオグラファーをつけてくださったのは非常に良かったと思います。感情が爆発する自由度は残しつつ、段取りをつけてくださったり、違和感があったらすべて指摘してくださったりする環境は恵まれていたと思います。

 

宮沢氷魚さん(以下、宮沢) :この作品に限らずですが、身体を重ね合わせるシーンというのは役者同士の同意も必要ですし、それは監督を始め、撮ってくれるカメラマンなど全員の理解があって成立するものだと思っています。ただ日本の作品は、まだ過去にコレオグラファーを入れた作品は多分ほとんどないのが現状です。そういったシーンはやはり役者にかなり負担がかかるんですよね。どういう風に表現すればいいのか、どこまで表現すればいいのか――。現場でまずみんなに見られているというところでもすごくストレスがかかる環境です。そこで役者と監督やスタッフの間に入ってくれる方がいることによってかなり安心感がありました。

それは間に入ってくれるということもですし、今回のような男性同士の性行為では間違った表現にならないかなど、細かいところまで指示してくれることによって、僕たちの芝居の幅や自由度が増すんです。そういう表現が間違ったことにならないという安心感があるからこそ、感情やその時のシチュエーションにすべてを注ぎ込むことができるという感覚を味わえました。これから生まれる日本の作品には必ず多分必要なポジションになってくるんじゃないかなという風に思います。


鈴木:それで言うと、最近はインティマシー・コーディネーター(※)という職種の方がいて、今回の『エゴイスト』の現場にはいらっしゃらなかったんですが、ドラマ『エルピス—希望、あるいは災い—』や、最近撮っている作品にも入っていらして、こういった方と仕事をしていくと、俳優が守られるだけでなく、シーンのクオリティも上がるなと思っているところです。

例えば「気持ちだけで演じて」と言われたとしても、演技は出来ます。でも、いいシーンになるかは別だと思うんですよね。お互いが安心して臨める撮影環境はもちろん、演技で自分が思う存分に感情や愛情をぶつけられる状態でいるためには、事前にお互いのNGラインを分かっている必要があります。それは実際の性行為でも同じなんですが、相手が自分を受け入れてくれている思いがあるからこそ愛を交わせるわけで、コーディネーターさんがいらっしゃることで、それに近い状態に持っていくことができると感じています。

今後はおそらく、『エゴイスト』のような作品ではインティマシー・コーディネーターさんとゲイのコレオグラファーさんが組んだり、レズビアンの物語であればレズビアンのコレオグラファーの方とコーディネーターさんが一緒に仕事をしたりだとか……。そういう現場も増えてくるんじゃないかなという予感がしてます。
※インティマシー・コーディネーター 映画やドラマなどでベッドシーンやヌードシーンなど、性的なシーンを撮影する際に立ち合い、監督と俳優の仲介をするコーディネーター。双方が納得したうえで撮影が行われるのをサポート。

『エゴイスト』では取材をしたインタビュアーがLGBTQにまつわる言葉を正しく扱えるようにと、用語集や注意が必要な表現などをまとめた冊子を用意していただきました。インティマシー・コレオグラファーのほか、脚本の段階から性的マイノリティに関するセリフや所作、キャスティングなどを監修するLGBTQ+ インクルーシブ ディレクターが参加するなど、正しく、心地よく、リアリティに溢れた作品を作るために積極的な取り組みがなされていたことも、素敵な作品が出来上がった理由のひとつに思えます。