2009年のスクリーンデビュー以来、数え切れないほどの映画、ドラマに出演してきた俳優の奥野瑛太さん。3月17日より公開中の映画『死体の人』はおよそ10年ぶりとなる主演映画です。

奥野さん演じる主人公の広志は、生きるにはやや不器用な、はたから見るとちょっと頼りない人物。でも、なぜかものすごくチャーミング。ときめくようなシーンやセリフは一つもないのに、物語が進むにつれどんどん可愛く見えてくるのです。奥野さんの観る人を惹きつけるお芝居、その理由は何なのか。奥野さんの言葉から探ってみました。

 

役に入り込むことが、作品にとって良いとは限らない


ーー今回、役者の役を演じるというのはいかがでしたか? 主人公の広志はお芝居に強いこだわりを持っていて、死体の演技もストイックすぎるくらいに追求してしまう人。そうした姿勢は奥野さんご自身の姿でもあるのかな、などと想像したのですが。

広志=僕、というふうに見てくださるのはすごく嬉しいです……そうなんですかね?(笑)。

広志と僕の生理は違うことの方が多いとは思います。それが作品の中でどう作用するかということも、俳優ひとりで操作できることではないとは思うのでなんともいえないのですが、演じる人の生理がどうであれ、完成した作品が面白くなるならそれで良いと思ってます。監督やスタッフの皆さん、「現場」に影響をうけながら演じている感じです。僕自身は主観的な視点と客観的な感覚を行ったり来たりしながら、落ち着きなく「現場」をいつも右往左往していますよ(笑)。

他の職業でも同じというか、皆さんそうじゃないですかね。みんなその場を全力で生きていて、なんかあの人の前では頑張ってしまうとか、なんかいつも通りうまくいかないなとか。無意識でいろんなことに影響を受けている日常を何気なく普通に送ってるような気がします。

逆に広志が死体になるのに必死であることと、僕が広志になろうとしていることにリンクしている部分があるのは面白いと思います。なので僕をそういう役者だと思ってくれても全然構わないんですけど(笑)、実際はもっと複雑な構造ではあると思いますね。

ーーなるほど。もしかしたら私に“奥野さん=ストイック”という先入観があったかもしれません。というのは、映画『グッバイ・クルエル・ワールド』(2020年)の舞台挨拶で、主演の西島秀俊さんから役に対する姿勢を絶賛されていましたよね。ニュース記事になっていたのを私も読んでいたので。

ストイックってなにに対してですかね(笑)。あっ! 西島さん言ってくださいましたね。恥ずかしくもあり嬉しかったです。僕自身はひどく客観的な部分もあったと思ってたので、それを聞いて逆にオドオドしちゃいましたけど(笑)。

ーー(笑)。

安西の役を演じてる西島さんにとって、作品に入るためのエネルギーになってるならなんぼでもいいように捉えてもらいたいです。僕自身も役柄も混同させながら『ゲス! 怖い人! 人でなし‼︎』と、映画を観ているお客さんにも、共演者の皆さんにも、現場のスタッフの皆さんにも、なんぼでも思ってもらいたいです(笑)。

なので、このインタビューで「広志=僕」って書いてくれていいです。

真面目な話をすると、広志に対してシンパシーを感じる部分は僕自身多分にあるので、それが今作品の妙だとも思います。もしかしたら、草苅(勲)監督がそう仕向けたのかもしれませんね。まぁ、僕は「広志=草苅さん」ですが。

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