表紙からはなかなか内容が想像できない『わたしが誰だかわかりましたか？』。印象的なタイトルと、鏡に向かってビューラーをかける女性。そして帯には「夫と離婚して数ヵ月後、わたしは匂いをかぎたいと思う、ある男と出会った。」とあります。この女性が自分の身元を隠して恋をする話なのかな？ 不倫かな？ なんて思いながら読むとその予想はまったく裏切られます。
夫と別れ、シングルマザーになった海野サチは、友人に離婚を報告しました。
「価値観の違い」というサチの離婚理由に、友人たちは「それだけ？」と共感してくれません。42年間まじめにコツコツ生きてきたのに残ったのは親身になってくれない友人と、反抗期の息子と、その息子を養うための仕事だけでした。
ある日、職場のパーティーで自分と同じバツイチになったばかりの40歳の男性・川上さんと出逢います。
いい雰囲気になっているところに、後輩の魚沼くんがサチに声をかけます。すると川上さんが反応。どうやら二人は知り合いみたいです。フットサルの話で盛り上がる二人に羨ましさを覚えながら、立ち去る時に彼女は思います。
何年ぶりだろう 男の人の手に触れたいと思ったの
翌日、連絡先くらい聞いておけばよかったかなと思っているサチの仕事用メールに彼からの連絡が届きます。恋をしたいなんて思ってないけれど、日々の生活にぱっと花が咲いちゃうようなドキドキ感が生まれるのを感じるサチでした。
ときめきながら帰宅する途中、産婦人科の前で友人のマリナと会います。
マリナは子どもが嫌いと言っていたので、産婦人科に通っているのは秘密だったのかもしれない、と思い、すぐに恋のはじまりの浮かれ気分に戻るサチでした。
「前の夫の時は こんなことなかった」
離婚した夫は友達に紹介された「ちゃんとした人」でした。ですが、一緒に暮らしてみると、情緒のアップダウンが激しいちょっと不安定な人だというのがわかりました。それだけでなく、あるものにのめり込んで家庭内がおかしなことになったのです。
でもそれももう過去。今夢中なのは川上さんとのメールのやりとり。恋心がみるみる膨らんだサチは彼に会う口実として、最初に会った時に盛り上がった本をメールします。でも、彼はまったく本のことを覚えていません。後日、「今から会えませんか？」と思い切って送ってみても「忙しいので」と断られました。メールは一日中していたのに、どうして？ サチは彼に不信感を抱きます。
メールの相手は 私だけじゃないのかもしれない
悶々としたサチは、SNSの投稿をさかのぼって見たり、彼の会社の前まで行ったり、しつこくメールを送りつけたりと「めんどくさい女」になってしまいます。
川上さんがメールだけでなかなか会ってくれない謎とは。サチがどうしてここまで川上さんにのめり込んでしまうのか。彼女が離婚した本当の理由とは。そして、川上さんは一体どんな人間なのか？
徐々に見えてくる元夫、友人などとの関係性が予想外にディープでびっくり。後半、タイトルの「わたしが誰だかわかりましたか？」が出てくるシーンでは、えっ⋯⋯と言葉を失ってしまいました。最後まで読んでから読み返すと、あちこちに伏線が張られているのがわかります。本作のテーマは「人を信じること」だそう。ラストのサチは誰を信じたのでしょうか。
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＜作品紹介＞
『わたしが誰だかわかりましたか？』
やまもとりえ (著)
バツイチ子持ちで、誰かを信じることに疲れ切っていたある日、同じバツイチの男と運命的な恋に落ちた。でも、そう思っていたのは私だけだった？ 40歳を過ぎての恋、反抗期の息子、産婦人科に通う友人⋯⋯平凡な物語はやがて、予想を覆す結末へ。他人を信じるとは、信じた人に裏切られるとは何か。「人を信じること」の意味を問いかける、最後の1コマまで先の読めない衝撃のセミフィクション。
構成／大槻由実子
編集／坂口彩
作者プロフィール：
やまもとりえ
鹿児島県出身のイラストレーター。長男（天パ）、次男（貫禄）、4つ年下の旦那さん（なで肩）、ネコのトンちゃん（ガリガリ）と大阪でのんびりと暮らしている。著書に『Aさんの場合。』『Aさんの恋路。』『今日のヒヨくん～新米ママと天パな息子のゆるかわ育児日記』『本当の頑張らない育児』『30歳女子、ネコを飼いはじめました。』『お母さんは心配性！？』『ねこでよければ』など。
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