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捨て犬をセラピードッグに育て人々を助けるブルースシンガー コロナ禍で捨てられた秋田犬ルーシーの物語

コロナ禍でおうち時間が増えたのをきっかけに、ペットを飼い始めた人も多いといいます。ところが、ストレスや淋しさを癒やしてもらいたくて安易に求めた人の中には、飼い切れなくなって手放すケースも出てきたのです。

そんな捨て犬たちを救ってセラピードッグに育て、障害のある人やお年寄りの治療を助ける『命をつなぐ セラピードッグ物語』が、今、注目を集めています。

著者の大木トオルさんは、ブルース歌手で、ライフワークとして長年にわたりセラピードッグ育成に取り組んでいます。捨てられた犬はどうなるの? セラピードッグって、どんなことをするの? そんな疑問を解決したくて、大木トオルさんにお話を伺いました。

 

「陽気なルーシー」のような、茶色い巻き毛のキュートな子犬


──コロナ禍で捨てられた犬を引き取っているそうですね。どんな犬ですか?

大木トオルさん:ちょうどコロナ禍が広まり始めたころ、福島の保健所から引き取った秋田犬です。生後5ヵ月でした。自粛を求められて外に散歩に出られなくなり、お年寄りの飼い主が飼い切れなくなって飼育放棄したのです。

──犬はお散歩が必要ですものね。飼い主もつらかったでしょうね。

大木さん:そうですよね……。でも、それまでは大切に育てられていたようで、とっても陽気で人懐っこい子なんですよ。茶色の巻き毛がふわふわしていて、とってもキュート。

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引き取られた頃のルーシー

私はアメリカの大人気テレビドラマ「陽気なルーシー」が頭に浮かび、「ルーシー」と名づけました。「陽気なルーシー」は、日本でも「アイ・ラブ・ルーシー」というタイトルで、1950~1960年代に放映されましたね。

「陽気なルーシー」は、ニューヨークに住む天真爛漫なルーシーが、歌手でバンドリーダーの夫をトラブルに巻き込んでは大騒動を繰り広げる、というコメディドラマ。私もブルース歌手でバンドリーダーをやっていましたから、ますますかわいいと思うようになったんです。
 

医師とともに治療やリハビリを手伝うセラピードッグ


──ルーシーは、今はどう過ごしているのですか。

大木さん:私は殺処分が決まった犬たちを、保健所や動物愛護センターから引き取って、セラピードッグにして人の役に立つ犬に育てています。ルーシーは、他の犬たちと一緒に、セラピードッグを目指して、頑張って訓練を受けているところですよ。

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成長したルーシー

──セラピードッグは、どんなことをするんでしょう。

大木さん:お医者さんと一緒に、お年寄りや体の不自由な人の治療やリハビリのお手伝いをします。犬がそばにいると、人は「犬に話しかけたいな。なでたいな。一緒に歩きたいな」という気持ちになるんですよ。「動物介在療法」といって、犬には人が生きる意欲を呼び戻す力があるんです。ルーシーもきっとすばらしいセラピードッグになりますよ!

──保健所に連れてこられた犬は、その後どうなるのですか。

大木さん:保健所や動物愛護センターには、捕獲された犬や飼い主が持ち込んだ犬がいます。だいたい5日くらいの間に、飼い主が迷子になった愛犬を迎えに来たり、もらってくれる里親が見つかった場合には渡されます。引き取る人がいなかったら、殺処分されるんです。ガス室に入れたのちに焼却され、粉骨は袋に詰めて廃棄処分されます。

──なんてこと……。殺処分される犬は、たくさんいるんでしょうか。

大木さん:愛護団体の方たちとも協力して、殺処分をなくそうとしています。保健所や動物愛護センターの人たちだって、やりたくてやっているんじゃないんですよ。みんなつらさを抱えている。

長年の取り組みによって、だんだん人々の理解が進み、2004年度には犬の殺処分数が15万5870頭だったのが、2020年度には4059頭にまで減ってきています。それでも、まだいるのが現状です。私は、全国の殺処分数がゼロになることを目指しているんです。

──殺処分をなくすためには、どうしたらいいのでしょう。

大木さん:迷子や捨て犬といった、保健所や動物愛護センターに来る犬を減らし、迎えてくれる里親を増やすことです。大事なのは、犬を迎えたら、亡くなるまで家族として大切にすること。でも、最近は愛犬を「この子は保護犬だったのよ」と、胸を張る人が増えてきましたよね。いい流れだと思います。

──飼い主を失った犬たちが、ルーシーのようにかわいがってくれる人とめぐり会えるといいですね。

大木さん:そうですね。私はルーシーが殺処分という不幸で亡くなっていった犬たちの分も立派になって、幸せを背負って、人を助けるセラピードッグになることを楽しみに待っているのです。

 


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『命をつなぐセラピードッグ物語 名犬チロリとその仲間たち』
大木 トオル (著) 1650円 講談社

捨て犬から、日本初のセラピードッグになった「チロリ」。
福島で救出された被災犬「幸」と「福」。
野犬として捕らえられた「ゆきのすけ」……。
殺処分寸前だったこれらの犬たちは救出されたのち、セラピードッグとしての訓練をつんで、医療・福祉の現場で活躍するようになりました。
どんな生まれでも苦しいことがあっても、環境が変わって教育を受けることで、よい生き方ができるようになる。
この本に出てくる犬たちのたくましい姿は、命さえあれば生まれ変わることができるということを、わたしたちに教えてくれます。

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プロフィール
大木トオル(おおき・とおる)

音楽家、(一財)国際セラピードッグ協会創始者。弘前学院大学客員教授、社会福祉学者(日米)。東京・人形町生まれ。東洋人のブルースシンガーとしてアメリカで活躍しつつ、動物愛好家として日米の友好・親善に尽くす。また、ライフワークとして殺処分寸前の捨て犬や災害にあった被災犬たちを救助してセラピードッグに育て、高齢者施設や障がい者施設、病院、教育の現場などで多くの人々の心身を支える活動をしている。著書に『動物介在療法 セラピードッグの世界』(日本経済新聞出版社)、『わがこころの犬たち ─セラピードッグを目指す被災犬たち』(三一書房)、『犬とブルース』(鳥影社)ほか多数。


●聞き手
高木香織(たかぎ・かおり)

出版社勤務を経て編集・文筆業。2人の娘を持つ。子育て・児童書・健康・医療の本を多く手掛ける。編集・編集協力に『美智子さま マナーとお言葉の流儀』『子どもの「学習脳」を育てる法則』(ともにこう書房)、『部活やめてもいいですか。』『頭のよい子の家にある「もの」』『モンテッソーリで解決! 子育ての悩みに今すぐ役立つQ&A68』『かみさまのおはなし』『エトワール! バレエ事典』(すべて講談社)など多数。著書に『後期高齢者医療がよくわかる』(リヨン社)、『ママが守る! 家庭の新型インフルエンザ対策』(講談社)がある。


文/高木香織