ドラマを面白くする上で必要な要素は、葛藤・対立・相克と言われています。たとえば、主人公の恋愛を描くなら、なんらかの“壁”を用意しなければ、視聴者をハラハラさせることができない。

3月14日に最終回を迎えた『星降る夜に』(テレビ朝日系)にも、その3つの要素が散りばめられていました。ただ、それを安易に使用しなかったのが、脚本家・大石静さんの凄み。本作の特徴は、恋愛を燃え上がらせる三角関係や世界の違いを、主として描かなかったところにあります。

 

障がいを“壁”として描かない


まず、そもそもの軸となっていたのが、感情を忘れて孤独に生きる産婦人科医・鈴(吉高由里子)と、音のない世界で生きる遺品整理士・一星(北村匠海)の恋路。

この2人の恋愛を描く上で、一星がろう者であることが恋を阻む“壁”となり、鈴を葛藤させると思い込んでいました。言葉が通じない、どうやって想いを届ければいいのか分からない。「やっぱり俺たち、一緒にいない方がいい」なんて、距離が出来たりするのかなぁって。

昨年大ブームを起こしたドラマ『silent』(フジテレビ系)や、『愛していると言ってくれ』(TBS系)、『オレンジデイズ』(TBS系)なども、音が聴こえない“悲しみ”にスポットを当てていましたよね。聴こえないことが、2人を阻む壁になっていました。

でも、『星降る夜に』は、鈴と一星の恋を“悲恋”として描かなかった。そもそも一星は、中途失聴者じゃなくてろう者だから、音のない世界が普通だと思って生きている。しかも、彼はとにかく明るいんです。一般的な25歳の青年らしく、下ネタも大好きだし、同僚の春(千葉雄大)と「どんなAVが好きか?」なんて軽口を叩き合っている。


障がいを持っている人は、聖人君子でどこか憂いを秘めている。本作は、そんな固定観念をとことん覆してくれました。鈴も、一星が聴こえないことをひとつの個性だと思って向き合っているのがよかったですよね。ろう者であることに、スポットを当てすぎない。それでも、視聴者の胸を打つことができる。大石静さんだからこそなせる技だなぁと思いました。