「ぬいぐるみ病院」の院長を直撃! 1万5000体を治療した愛のあるサービスと感動秘話


ぬいぐるみの「病院」があるのをご存知でしょうか。東京・神田にある杜の都なつみクリニックは、1ヵ月に約100体のぬいぐるみを治療する専門病院。2023年3月現在、年内の予約枠は埋まっているほど、全国からぬいぐるみが殺到しています。この病院に、ぬいぐるみを預けると「感動」があると口コミで広がっています。どんな治療が受けられるのか、院長の箱崎なつみ先生に聞きました。

クリニックに入院中のぬいぐるみ。治療する子だけでなく、付き添いのぬいぐるみも預けることができる。


「ぬいぐるみ治療」は元どおりに直すことがすべてではない


箱崎なつみ先生(以下箱崎、敬称略):うちの病院では、ぬいぐるみの診察に心血を注いでいます。まず、問診票にそって細かくカウンセリングしていきます。ぬいぐるみ治療で難しいのは、すべての傷をなおしていいとは限らないこと。たとえば、ストーブの焦げ跡がついてしまったぬいぐるみを「もとどおりに戻したい」と考えるお客様もいれば、「自分のことを守ってくれた証として残したい」と考えるお客様もいるのです。

杜の都なつみクリニックの問診票の一部

また、生地の70%以上がなくなっている状態の子を、復元したいという依頼もあります。大変難しい依頼ですが、そういうときは傷つく前のお写真を持ってきていただいて、表情や体の形をできる限り写真の状態に戻していきます。お客様とのカウンセリングを繰り返し、お客様と私たちの仕上がりイメージをより近づけることが大切です。

くまのぬいぐるみ「ファミちゃん」は、入院時は生地がボロボロになり、目のない状態でしたが、退院時には張りのある体に戻りました。
「プーヤンさん」は、後ろの首から背中にかけてハゲた状態で入院。治療後は、全身ふわふわの毛に復活しました。
 

お客さまの涙が「ぬいぐるみ専門病院」につながった


箱崎:専門学校を卒業したあと、洋服やカーテンのお直しをあつかうお店につとめていて、そこのメニューに「ぬいぐるみ修理」がありました。驚いたのは、ぬいぐるみをなおしたときのお客様のリアクションです。涙ぐみながら喜んでくださる方も少なくなくて、心を打たれました。

ぬいぐるみを「修理」するのではなく「治療」する場所をつくりたい。お客様と接しているうちに、自然とそんな気持ちになっていきました。杜の都なつみクリニックを開業したのは、2015年のこと。独立前から数えると、約1万5000体以上のぬいぐるみを扱ってきたことになります。

治療期間の目安は、1ヵ月半から2ヵ月ほど。入院中の様子は、ホームページで確認することができます。

私のクリニックの、技術面以外のサービスとして「こころハート」があります。中綿の入れ替えをする際、もともと入っていた中綿をハートのガーゼに包み、お体のなかにしまいます。中綿は、いわばぬいぐるみの「本体」。お客様の愛着がある中綿を少しでも残してあげることで、その子らしさが残ると私は考えています。

あとは入院するぬいぐるみが一人で寂しくないように、一緒に暮らしているぬいぐるみを付き添いとして預けるサービスもあります。こういった独自のサービスは、長年お客様と接しているうちに自然と思いついてきました。

古い中綿はハート形のガーゼに包まれ、新しい中綿におさめられます。


小さいお子さんから海外からのリクエストまで


箱崎:クリニックには、幅広い年代のお客様がいらっしゃいます。年代物のぬいぐるみを、ご年配の方が大事そうに持っていらっしゃることも多いです。いまは「ぬい活」という言葉があるくらい、大人でもぬいぐるみと生活を共にすることが当たり前になりましたが、きっと昔からぬいぐるみ好きの大人はいたのではないかと思います。

ぬいぐるみを引き渡すときは、みなさんどことなく元気がなくて。なおせないと半ば諦めていたり、離れることが不安だったり。そんなお客様も、私たちとお話ししているうちに、徐々に安心してくださいます。入院期間を経て対面したときは、涙を流さんばかりに喜んでくださることも多いです。

治療中のぬいぐるみ。中綿を取り替えるサービスでは、もとに入っていた古い中綿と、同じ重さの中綿をつめることで、もとどおりの張りを復元します。

くまのぬいぐるみを持っていらっしゃった4歳の女の子は、もとどおりになったぬいぐるみを見て、嬉し泣きをしてくれました。離れたぬいぐるみを心配する気持ちと、もとの姿に戻ってほしいと祈る気持ちと、小さな心のなかで葛藤があったはず。彼女と喜びを分かち合えて、私たちも幸せな気持ちになりました。

こんな感動的な出来事に立ち会えるのは、ぬいぐるみ病院ならでは。最近では国内外のメディアにも取り上げていただいて、海外からエアメールで入院する子も増えてきました。これからもお客様に喜んでもらうために、一つでも多くのぬいぐるみを治療していきたいです。

ぬいぐるみ専門病院® 杜の都なつみクリニック院長の箱崎なつみ先生。


ぬいぐるみを「生きている」ように接する病院


杜の都なつみクリニックでは、院長・箱崎なつみ先生の経験から、独自のカウンセリングやサービスをおこなっていることがわかりました。ぬいぐるみに命が宿っているように丁寧に治療することが、多くのお客様の心をつかむ理由のようです。

あなたの手元にあるぬいぐるみも、専門病院の力を借りてきれいにしてみませんか。とっておきのケアをほどこせば、ぬいぐるみもきっと喜んでくれるはずです。
 

「ぬいぐるみ診療所」の童話が大人気! はやくも3冊目が刊行


杜の都なつみクリニックの箱崎なつみ先生のインタビュー、素敵でしたね! 実は児童文学の世界にも、ぬいぐるみの診療所を舞台に描いた物語があります。

大人気「はりねずみのルーチカ」シリーズのかんのゆうこ&北見葉胡コンビが、ぬいぐるみ診療所を舞台に描く心のいたみをいやす物語。大変評判で、待望の3冊目が発売されました!

『りりかさんのぬいぐるみ診療所 パンダのなみだ』 作/かんのゆうこ 絵/北見葉胡 定価/1320円(税込み)

りりかさんは、ぬいぐるみのおいしゃさん。ぬいぐるみだけでなく、ぬいぐるみの持ちぬしの心までいやします。今日は、大事にしていたペガサスのつばさを切ってしまった少年がお母さんと診療室にやってきました。少年が心に隠していた秘密をお母さんが知ることで、本当の願いを思い出すことになるのです──。

ぬいぐるみが好きな人、ぬいぐるみの気持ちを知りたい人、自分の本当の気持ちを知りたい人、大切な人に気持ちを届けたい人にぜひ読んでもらいたい、感動の「ぬいぐるみ童話」です。

 


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文/山口真央