嫁いびりにムラ社会。もう昭和の遺物のようにも思えますが、まだ日本のどこかには当たり前のように残っていて、そこで犠牲になっているのは圧倒的に女性なのでしょう。夫の家業を手伝っているのに義両親から嫌味を言われ続ける環境から抜け出したい女性がパート先で不倫をしてしまう『お宅の夫をもらえませんか?』が3月17日に発売されました。

高校卒業後すぐに結婚し、夫の実家である農家を手伝っているなな子。2人の子に恵まれ、幸せそうに見えるけれど、全然幸せじゃない。その理由は夫の両親。

 

朝から晩まで嫌味の連続で、感謝や思いやりの言葉が返ってこない日々。夫はいつも見て見ぬフリで何も言わない。「農家の嫁以外のことやってみたい」。外に出て働きたいと願うなな子は、新しくオープンするスーパーのパート募集を見つけます。

 

嫌味ばかりの義両親に、育児を一切やらないのに3人目を欲しがる夫。パートができたらこの生活が変わる。息子が通う子ども園で、揃ってお迎えに来ている夫婦を見かけ、羨ましくなるなな子。
夫と義両親に頼み、パートの面接を受けに行きます。面接をした店長はなんと、子ども園で見かけた夫婦の旦那さん。これが運命の出逢いでした⋯⋯。

 

パートに受かり、働きはじめたなな子は仕事の楽しさを噛みしめます。けれど家に帰ると相変わらず地獄のような日々でした。

 

パートの仕事は楽しく、一緒に働く人や店長は、自分の仕事ぶりを褒めてくれる。特に店長は一生懸命な姿を見てくれる。

 

応援している野球選手も同じだと知った時、なな子は「この人が好きだ」とときめいてしまうのです。
パートに行く前、いつものように義両親に嫌味を言われ、夫に見ないフリをされたことにため息をついていると、「何かあったらいつでも相談して」と店長に声をかけられます。
思い切って、夫の両親と同居していること、農家を手伝っていることが苦しいという相談をすると。

 

優しい彼に、結婚前の優しかった夫の姿を思い出すなな子。

ある日なな子の息子が店長の娘さんを転ばせてしまうトラブルが起きました。必死に謝るなな子を見て、店長は気づくと自分の子よりもなな子の子を庇っていました。
なな子は帰宅するとこのトラブルの件で嫌味を言われ、限界を感じます。翌日の仕事に身が入らずミスばかり。バッグヤードで涙を流します。

 

これをきっかけに店長となな子は戻れない関係になってしまいます⋯⋯。

なな子の住む土地はまさにムラ社会で、結果的に不倫したことを責められるのですが、悪いのはなな子だけだったのかな? と同情しちゃうんですよね。不倫を狙って、あえて既婚男性に相談を持ちかけるあざとい女性のことを「相談女」と言いますが、なな子は相談女ではなかったと思うんですよね。夫の実家に縛られて、心から苦しんでいたのですから。

一方、店長はどうだったのか。最初はなな子を助けてあげたいという気持ちだったと思いますが、裏には、自分の出世のために田舎について来てくれた妻への負い目みたいなものがあったのかもしれません。
店長として職場のトップに立っていても、それとは別に、男として頼られる場所が欲しかったのかもしれませんね。そこに、なな子の存在が現れたのはちょうど良かったのかも。こう見ても彼女は、店長に自覚がないままにうまく利用されちゃってるようで、やっぱりかわいそうな気がします。

本作の中でなな子の苦しみを理解していたのは、店長以外にもいました。それはなな子の娘です。勉強を頑張っているのですが、その理由は、大人になったらお母さんを助けたいと思っていたからなのです。その姿はいじらしくもあり、聡明です。

嫁いびりをする古臭い価値観の義実家と、狭い人間関係のムラ社会の罠に引っかかり、犠牲になったなな子でしたが、きっと娘ちゃんは同じ罠にははまらないで、学力を武器にそこから抜け出していけるはず。

タイトルの『お宅の夫をもらえませんか?』とは、その武器を持てないまま、抜け出そうと苦しんだなな子の切なる願いだと思うのですが、最後まで読んだらあなたはどう感じるでしょうか。

 

『お宅の夫をもらえませんか?』第1〜4話を試し読み!
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<作品紹介>
『お宅の夫をもらえませんか?』
みこまる (著) いくた はな (原著)

嫁ぎ先でいびられているなな子は、パートの職場だけが唯一の居場所だった。ママ友の夫で、職場の上司である忍は愛妻家で有名で、羨ましく思うなな子だったが、ある事件をきっかけに、忍と一線を越えてしまう。
一方、忍の妻の香織は、最近 夫の様子がおかしいことに気がつく。夫が不倫していたのは、娘のママ友で、夫の職場で働くパートの女――。不倫をした夫とママ友のなな子に、香織の下した決断とは。
不倫で人生が激変する2人の女の物語。
 


作者プロフィール: 

作画・みこまる
漫画家。SNSを中心に活動している。

原作・いくた はな
会社員として働きながら、育児の体験談や夫婦の出来事をイラストや漫画で描き、インスタグラムに投稿。
2016年から始めたインスタグラムのアカウントのフォロワーは、22万人(2021年4月現在)にのぼる。
著作に『懐かないかのじょ。』(KADOKAWA)『夫にキレる私をとめられない』(KADOKAWA)がある。


構成/大槻由実子
編集/坂口彩