「腹が減っては戦ができぬ」ということわざがあります。空腹では何をするにも力が入らないもの。よい働きをするには、まずは腹ごしらえをしてから、という意味です。でも、これが実際の戦場であれば、兵士にとっては自分の命が、国からすれば自国が守れるかどうかがかかっていて、まさに死活問題です。しかし、戦時下は食料確保自体が困難になり、戦線が拡大すれば食料の補給も難しくなっていきます。そんな時、「戦争中だからしょうがない」と空腹に耐えるしかないのでしょうか? モーニングで不定期連載中の『鉄血キュッヒェ』は、第一次大戦の時代に、若きコックと癖アリ中佐のドイツ軍バディが、食糧事情改善に奮闘する物語で、新たな“ミリメシ”グルメとして注目を集めています。


フランス帰りの凄腕シェフが、兵士に「不味い」と罵られる理由。


物語の舞台は、第一次大戦下のヨーロッパ。ドイツ軍の炊事部隊に属する料理人・ヴァイスは、兵士のための食事を作るのが仕事です。当時、各国の兵士が1日に配給されるカロリーは約4000kcalといわれていましたが、急激な戦線拡大のため、前線のドイツ兵には2100kcalしか届かない事態に陥っていました。

ある日のメニューはリンゼンズッペ(レンズ豆のスープ)にバカリャウ(塩漬けタラの干物)と、ハードタック(堅パン)。最前線の塹壕より20km後方であっても、兵士が満足する食事には程遠い状況。ヴァイスは兵士から「こんな不味い飯で腹が膨れるか!」とキレられていました。

「腹が減っては戦ができぬ!」補給もない戦時下の“ミリメシ”を若手シェフと変人中佐が改善する秘策とは?_img1
 

具なしスープなど、不味い料理を提供せざるを得ないのは、食糧の補給が間に合っていないから。ヴァイスはかつてフランスに行き、伝説の料理人で現代フランス料理の基礎を築いたといわれるオーギュスト・エスコフィエの厨房で右腕として腕をふるっていたことがあります。それだけに、戦争に駆り出されてわずかな食材で料理を作っては、兵士に罵倒される毎日に辟易していました。

炊事部隊の軍曹は、そんなヴァイスに対して、「若造が客と食材を選ぶな!」と一喝。そして、陸軍に新設された健兵課からある中佐が前線視察に来るため、彼のための料理を作るように命じられます。幸い、脚が折れて殺処分される輓馬(ばんば)がいるため、馬肉を使うことができます。ただし、その中佐は「食」にうるさく、ほかの部隊で生半可な食事を出した者は砲撃の的にしたこともあるという噂の持ち主。ヴァイスの提供する料理に、炊事部隊の命運がかかっているというのです。

責任重大のヴァイスですが、中佐に自分を売り込むチャンスでもあります。どんな料理を作ろうか考えている時に、道端でうつ伏せになって倒れている男を発見します。死体と思いきや、その男は地面に生えた雑草を食べ比べ、「これは食べられる草」などとブツブツつぶやいていました。

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空腹すぎて戦える状態ではない兵士たち。どうする料理人!?


実はこの男こそが、「食」にこだわりの強い噂の中佐。ヴァイスはゲルプ中佐のために、さきほど彼が「食べられる草」と言っていたスイカズラの葉もメニューに取り入れた料理を作り、見事お褒めの言葉をもらうことができたのです。しかし、ゲルプ中佐は、葉物やイモ類などが不足していることから、栄養素の偏りを指摘し、前線の兵士たちが実際に食べている糧秣(りょうまつ・軍隊用語で、兵士の食糧と軍馬のまぐさのこと)を見たいと言います。

ゲルプ中佐に連れられて、最前線にある塹壕の様子を見に来たヴァイスたち炊事部隊。そこで、食事に文句を言っていた兵士たちがぐったりと座り込んでいる様子を目の当たりにします。彼らは敵の侵入を防ぐため、川にかかる橋を死守しなくてはならないのですが、空腹にあえぐ彼らは到底戦える状態ではありません。そこに敵からの強襲があり、あっさりと橋を奪われてしまいます。明朝に奪還を試みることになりましたが、兵士たちが空腹のままではまた同じことの繰り返しになるのは明らかです。

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ゲルプ中佐はヴァイスたち炊事部隊の料理人たちに、「君たちは責任を持って早急に改善を図るべきだ」と言われますが、食糧の補給がないのは料理人のせいではないため、戸惑いを隠せません。それでもゲルプ中佐は、「どうにかしたいと君が思うかどうか聞いている」と迫ります。

答えられずにいるヴァイスたちに対して、「食糧事情は私が改善してみせよう」と断言するゲルプ中佐。彼いわく、栄養素が足りなくても、最低限カロリーだけでも確保すべきと主張。しかし、いま炊事部隊の手元にあるのはわずかな食糧のみ。一体どんな秘策があるのでしょうか?
 

 

厳しい戦時下でも、創意工夫の料理で心を癒やせ!


厳しい戦時下の前線でも、なんとか食糧事情を改善しようと奮闘するゲルプ中佐ですが、かなり強引なところもあり、根っからの料理人であるヴァイスは、見るに見かねて自分の料理の腕でなんとかしようと自ら行動に移すようになります。ゲルプ中佐が、道端に生えていた草を食べていたように、周囲に目を向ければ意外な食材候補があるかもしれません。また、食材自体が乏しくても、調理方法を工夫すれば、多少なりとも食べやすくなるかもしれません。

ヴァイスは、ゲルプ中佐と出会うことで、食材がない、兵士が文句ばかり言うと、諦める前に自分にできることはまだある、ということに気付かされます。ゲルプ中佐もまた、ヴァイスの料理の腕前と創意工夫に惚れ込み、のちにいかなる状況下でも完璧な料理を提供するという伝説の二人組「鉄血の台所(キュッヒェ)」がここに誕生したのでした。

私たちが日々食べている食事は、生きるための栄養を確保するためでもありますが、生きる喜びでもあります。それは戦時下でも変わらないことで、むしろ厳しい状況だからこそ、たとえ食材は乏しくても、食べる人のことを考えた料理や、暖かい食事は人の心も満たすことになるはず。ヴァイスとゲルプ中佐は、さまざまな前線に赴き、兵士の「食」を変えていくことになります。

それにしても、出てくる料理の美味しそうなこと! ヴァイスとゲルプ中佐の凸凹コンビっぷりも見どころのひとつです。2/9に単行本1巻が発売され、一気読み間違いなしなのですが、早くほかのエピソードを読みたい! 不定期連載なのがもどかしくなる面白さです。

 

【漫画】『鉄血キュッヒェ』第1話を試し読み!
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『鉄血キュッヒェ』
中島三千恒 講談社

超本格ミリタリー漫画『軍靴のバルツァー』の中島三千恒、講談社初登場!
第一次世界大戦下のヨーロッパに「鉄血の台所〈キュッヒェ〉」と呼ばれたチームがいた。
若き料理人&変わり者の軍人の凸凹コンビが、前線で兵士の「食」を変えていく!!


著者プロフィール
中島三千恒(なかじま・みちつね)

「別冊少年マガジン」で『軍靴のバルツァー』 を連載中。

 

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