ICUからNICUにベッドごと移動しての、母と子の初対面

「母子で並んだベッド。保育器内に差し出した妻の左手が、小さな手にぴったりと重なった」(中本さん)

そうして迎えた、2020年の7月7日、七夕。帝王切開手術は無事に成功し、1203グラムの男の子が誕生しました。

しかし、その後も妻はICU(集中治療室)で引き続き治療を受けることに。妊娠7カ月で産まれ、NICUで治療を受ける息子さんとの間を行き来しながら、中本さんは2人のがんばりを信じ続けます。大切な2つの命を見守ることしかできない父の不安、そして出産後に息子に対面できない母のもどかしさは、想像するだけで胸が締めつけられます。

 

出産から数日が経ったある日、ICUのスタッフから「母と子の初対面をしましょう」との嬉しい提案が。ICUからベッドごと大移動してNICUの我が子の元にやってきた妻の様子を、中本さんはこう綴っています。

左に母、右に息子。どちらにも、酸素や血圧のモニターとアラームが点灯している。(中略)
白くて大きい手のひらと、真っ赤で小さい手のひらが、ぴたっと重なった。
それまで眠っている様子だった息子は、切れ長の両目のまぶたを開き黒目がちになり、眼球がキョロキョロと初めて見る母親を追いかけた。
妻は瞬時に、ふんわりとした母の顔になった。自然界に生きる動物の母と子そのものだ。
ただ笑っているだけでなく、慈愛に満ち、そして息子を心配そうに見守る表情も混ざっている。私は胸がいっぱいで、なにも言えなかった。

――『56歳で初めて父に、45歳で初めて母になりました』より

その後、医師と医療スタッフの献身、そして「生きたい」という母としての強い気持ちによって順調に回復した妻は、緊急帝王切開の手術から16日目に無事退院することに。

息子さんはNICUからGCU(新生児回復期治療室)へ移り、2020年の9月27日、晴れて息子さんも退院。ここからようやく、親子3人での暮らしがスタートしたのです。