金融機関とは異なり、スマホ決済サービスは手数料が安く設定されており、何度も送金することができます。これまで給与が月に1回支払われていたことの背景には、企業にとって振込手数料の負担が大きく、1週間に1回、あるいは都度振込の場合、コストが割高になってしまうという事情がありました(ちなみに諸外国では給料は週払いというケースも結構あります)。安価な手数料であれば、場合によっては日給制も可能となるでしょう。 

写真:Shutterstock

今回の制度改正を受けて、スマホ決済アプリを提供するPayPayが厚生労働省にデジタル払いの申請をしたほか、楽天EdyやauPayなど各社が相次いで申請を行っています。NTTドコモのd払いも近く申請する見通しと報道されていますから、今後、さらに多くの事業者が給与のデジタル払いに対応すると予想されます。

 


給与の支払いを金融機関以外に拡大した場合、デメリットは生じないのでしょうか。

銀行など金融機関は、預金者保護の観点から、政府が厳格な監督・指導を行っています。銀行預金は政府によって保護されますから、企業が給料を支払ったのに銀行が倒産して口座からお金を引き出せなくなるという事態は基本的に発生しません。

決済事業者にも各種の規制がありますが、銀行よりは緩い内容となっています。政府ではデジタル払いによって消費者に不利益が生じないよう、デジタル払いで受け取れる金額は100万円までとし、万が一、利用している事業者が破綻しても100万円までは保護される仕組みとなっています。
 
厚生労働省ではデジタル払いを行う事業者については数ヶ月間かけて審査を行い、消費者保護を徹底する方針ですから、危険な事態になることは想定しづらいでしょう。一方で、あまり審査を厳しくし過ぎると、今度はデジタル払いに対応できる決済事業者が少なくなってしまうというデメリットも指摘されています。

現時点では、高額なお金を預けたり、決済したりするのは金融機関の方が確実です。一方、副業の進展など、個人の働き方も大きく変化していますから、本業とは別に、様々な形でお金を稼ぐ人が増えてくると予想されます。ネット上でのちょっとした副業で対価を受け取るような場合、デジタル払いはうってつけです。

個人にとっては、状況によって各種サービスを使い分けるのがよさそうですし、何事もそうですが、1つのサービスに依存しない方がリスクをうまく分散できます。

一方、企業にとっては、給与の支払先が増えることになりますから、事務の手間が増えることが予想されます。業務のIT化を積極的に進めていかないと、従業員の負荷増大につながる可能性もありますから、それなりの対応が必要となるかもしれません。
 

 

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