「豪邸より、生活費が欲しい」
「また会社員になろうと思ったのは、娘が2歳近くになった頃です。自由のあるフリーランスは魅力的ではあったけれど、産休育休手当てがもらえなかったことも含め、リスクのある働き方だと思ってしまって。
また30代も半ばを過ぎれば、学生時代の同級生や就活同期はすっかりキャリアを積んでいて、金欠とは無縁の生活を送っていました。特に外資系企業に就職した友人は軽く数千万円稼いでいたり、起業をしてる人もいて……。ブランクは否めないけれど、今からでも軌道修正をして年収1000万円を目指そうと思いました」
もともと高学歴で語学も堪能な彩乃さんは、就職活動を始めると様々な企業から声がかかったそう。しかしこのとき、新たな壁にぶつかってしまったのです。
「あれ? と思ったら、第二子を妊娠していたんです。長女と同様、また悪阻も酷くて。一社、これまでの私の経験を活かせそうなクリエイティブ系の職種の面接が進んでいましたが、就職してすぐに産休に入ってしまうのは難しいと言われてしまいました……」
女性がキャリアを築くにあたり、どうしても現実的に問題となりがちな出産に育児。雇う側ももう少し寛容になれないのかと思いますが、現状はこうした話はよく耳にします。
「結局、このときは就職するのは諦め、知人の会社で業務委託で事務の仕事を始めました。ほとんどリモートで融通が利き、決して大変な業務ではない代わりに収入は月に20万円弱。夫の月10万円と合わせてやっと30万円の収入ができましたが、出産が控えており収入が止まるのはわかっているので、安心はできないままでした」
そんな中、第二子出産にあたり、ご主人の家族がある提案をしました。
「家族が増えるからと……お祝いとして彼の家族が購入したのが、この家です」
150平米以上、お風呂とトイレが二つずつある、都心のタワーマンションのペントハウス。詳細な値段は控えますが、数億円したそうです。
「もちろん嬉しいですし、感謝もあります。見方を変えれば私はただの幸せな奥さんで、贅沢な悩みなんだろうことはわかります。恩知らずの愚妻かもしれません。でも現実、夫の家がいくらお金持ちでも、私はそこに何の権限もなく、相変わらずお金がない。この家もプレゼントというよりは投資、あるいは資産を増やす一環なんだと思います。夫と夫の家族は、お金は極力消費に使わない主義で、たしかに日常生活は質素に過ごしてる印象ですが……。
でも私は、広い豪邸なんかより切実に生活費が欲しいですよ。デパートでリップグロス1本買うのも悩んだり、中国の工場直通の安い洋服ばかり着ているのも、虚しさを通り越して笑えてきます」
ちなみに彩乃さんは月10万円のお小遣い額のアップを何度か交渉しましたが、業務委託の収入があること、現在の部屋に引っ越した際に費用が掛かったこと、また光熱費等の必要経費が底上げされたなどの要因で交渉は決裂したそうです。
そして彩乃さんは出産に突入。再び収入が絶たれたことでまた残高が減り始め、先月末の引き落としで預金残高が30万円を切ってしまったのです。
「長女は1歳過ぎまで外に預けずに育てていましたが、息子は6ヵ月で保育園に入れ、今はまた就職活動をしています。3社ほど面接は進んでいるので、きっと状況はよくなるはず。年収は700〜800万円の会社です。
あと、夫にはようやく家族カードを作ってもらうことになりました。これで赤字生活から抜け出せることを願ってます」
前編の記事公開後、筆者のもとに「実は私も金欠で悩んでいる」という知人数名から連絡がありました。その全員が結婚されていて、裕福としか思っていなかった女性ばかりです。
彼女たちの話を総合した見解ですが、彩乃さんも仰っていた通り、本当のお金持ち、あるいはお金のリテラシーが高い層は「消費にお金を使わない」ことが多いようです。
最近はSNSなどで隣の芝生が異様に豪華に見えてしまうこともありますが、一方で、「うちの夫はお金には寛容と同時に浪費家で、実は貯金はないからむしろ彩乃さんが羨ましい」との声もありました。ラグジュアリーブランドに勤める知人が「年間かなりの額を使うVIP層の顔ぶれはだいたい数年で入れ替わる」と話していたり、お金は増やすよりも守る方が難しいと聞いたこともあります。
湯水のようにお金を使いながら、その財産を保つことができる人は、実はほんの一部なのかもしれません。
富裕層と思われながらお金の悩みが尽きない彩乃さんに不憫さも感じますが、結局のところ、家族とはいえ、誰かに頼らずとも自分で収入を得る力を失わないことが女性にとって一番楽な方法であるはずで、彩乃さんの行動は間違っていないはず。
また個人的な印象ですが、一見セレブ妻となった彩乃さんが“働くしかない”環境に身を置くのも自らの選択で、何かの思し召しのようにも感じました。もともととても優秀で、まだあらゆる選択肢や可能性があるはずの彩乃さん。2児を育てながらの就職活動は大変に違いないですが、さらにその才能を発揮できる場所が必ずあるのだと思います。
今後のご活躍を応援しています。
取材・構成・文/山本理沙
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