懐かしき再会


そんな経緯があったから、翌日の夜、帰宅中に見知らぬ番号から電話がかかってきたとき、とっさに宅配便の業者かと思い、通話ボタンを押した。怪しい電話だったら非通知だろうし。080で始まる番号はきちんと表示されていた。

「はい、もしもし……?」

警戒と、少しの礼儀正しさを声に込めて、電話に出る。

「もしもし? あの、こんばんは……三国涼香さん、ですか? 夜分に突然失礼します。僕、城山高校の同級生の鈴木と申します」

「え!? ええ!? ええと、鈴木って……鈴木博史……くん!?」

「わ! そう、そうだよ! 久しぶり。よかった、電話出てくれて。知らない番号だからびっくりしたよね、ごめん突然」

「うわあ、びっくり。え? あれ? 私の番号誰かにきいた?」

 

頭の整理が追い付かず、もう少しでマンションのエントランスというところだったが立ち止まり、道の端に寄って通話のボリュームを上げた。鈴木くんも外にいるらしく、少し聞き取りづらい。

 

「うん、Facenoteにさ、高校の同窓会コミュニティあるだろ? あそこでみんなに聞いたよ! 三国さん、元気そうだね。こっちの化粧品会社に勤めて活躍してるんだってね」

「そうなの~、あれ、鈴木君も東京? 卒業以来だから、もう15年近く会ってないもんね、上京してたとは知らなかったよ」

「そうなんだ、実は長いこと仕事で海外に行ってて。SNSなんかも放置してて、すっかりみんなとご無沙汰しちゃったよ。あのさ、藪から棒で恐縮なんだけど……今日電話したのは、ちょっと頼みがあって」

「え? 私に?」

一気に警戒感が高まった。卒業して以来音信不通だったクラスメート。特別仲が良かったわけでもない。こういうパターンは、たいてい、選挙のお願いか、何か買えって言われるか……?

「実は、俺、今度結婚するんだけど、記念に生い立ちがわかるDVDを作ることになって。ちょっと事情があって……彼女のお父さん、ガンで長くないんだ。結婚式も出られないくらい。それで事前に、見てもらえるものを渡したくてね。ところがさ、高校時代の写真、携帯落としたせいで全然残ってないの。親も引っ越しで写真どこいったかわからなくて」

「そうなのね、おめでたいけど、お父様は心配だね……そのアイディア喜んでくれそう!」

どうやら予想していた展開とは風向きが違う。私は注意深く話の続きに耳をすませた。

「そのDVDの作成は業者に頼むんだけど、明後日までに写真を渡せば、来週中に納品してもらえるんだ。卒業アルバムでもあればそこからデータに起こせると思ったんだけど……同級生はほとんど苫小牧とか札幌で、東京で借りられそうもなくて。そしたらさ、三国さんが東京だからダメ元できいてみろって。あ、もちろん集合写真とか、クラスの写真でも、なんでもいいんだ。もし手元にあったら、1枚でもいいから、協力してもらえないかな?」

鈴木君の語りに、私は思わず自分の薄情を恥じた。故郷のクラスメートのおめでたい報告と相談に、つい意地悪なことを考えてしまったじゃないか。

「それは大変ね、もちろん協力させて。って言っても、私もデータ、当時はクラウドに入れてなくて、SDカードで北海道なんだよねえ。あ、でも卒業アルバムはあるよ! 持ってきてる!」

旧友のお役に立てそうだ。私は思わず声を弾ませた。卒業以来1回も開いていないアルバム、持ってきてよかった。

「うそ、マジで!? うわ~助かった、ありがとう! 三国さんのマンション五反田だよね、俺、会社が大崎なんだ!  急で悪いんだけど、明日借りてもいいかな? 家のすぐ近くまで行くから」
 

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平穏な毎日に潜む、恐ろしいシーンをのぞいてみましょう。
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