夫が妻に求めた条件 その② 20代で息子を産むこと
いつかは子どもが欲しいと思っていたのは由真さんも同じ。しかし、タイミングを一方的に通告されたことはショックだったと言います。まるで産む道具のように思っていることが、夫の言葉から感じられたためです。
モヤモヤする気持ちもありましたが、半年後、由真さんは妊娠。その喜びは、物思いを吹き飛ばすほどの威力がありました。幸い妊娠経過は順調で、看護師としてフルタイム勤務をしながら、臨月を迎えることに。
「一般企業でも1カ月くらい前から産休に入れると思うのですが、義母も夫も、代わりのスタッフを雇うでもなく、妊娠10カ月目になっても立ち仕事でした。クリニックの開院から4年が経っていて、その頃には『由真さんがいるからこのクリニックに通ってるのよ~』なんて言ってくださる患者さんも多くて。スタッフも、もはや院長である夫よりも私とのつながりが強かったので、皆さんから『そろそろ休むようになんとか伝えてみては』と声をかけられて気遣っていただいていました」
結局出産当日まで働き続けた由真さん。破水したのは、予定日3日前、勤務中のことでした。幸い出産は順調で、息子さんが誕生。由真さんが27歳の時のことです。
理事長でもある修さんの母親はこのときばかりは大喜び、由真さんに「よくやった、若い嫁にした甲斐があるわ」と言葉をかけたそう。
子どもが0歳のあいだは、臨時でパート看護師を雇ってくれた修さん。そのおかげで育児に専念することができる……そう思ったのも束の間、彼は突如として関東近郊に別荘を購入。趣味のバイクで思い切り走りたいなどと言うと、週末をそちらで過ごすようになります。
「おそらく、赤ちゃんに手がかかり、生活が所帯じみたのが嫌だったんだと思います。もともとホテルライクなものが好きということで、豪奢で生活感のない家でした。私はちょこちょこ絵を描いたり、インテリアになるものを作ったりするのが好きで、そういうものを並べたほっとする家にしたかったので、結婚してからいつも他の人の家にいるような気持ちでした。
子どもが生まれると、さすがに生活感のない空間をキープするのが難しくて……夜泣きもひどく、『翌日の診療に障るだろ、黙らせろ』と言われて、自宅から徒歩15分くらいの海辺までおんぶして歩く、みたいなむなしい時間を繰り返していました。ですから週末別居になって少しだけほっとする部分もありました。……この時点で、夫婦として無理をしていたんですね」
淋しそうな表情を見せる由真さん。週末別居が2年目に入った頃、夫が浮気相手と別荘で密会していることに気がつきます。お子さんが1歳になり、なんとか移動ができるようになったため、月に1回ほどはそちらで3人で過ごすようになっていました。
ところが、修さんの「脇が甘く」、流しの下に見知らぬお泊りセットが放りこんであったり、明らかに修さんのものではない使い捨てのコンタクトレンズが置いてあったりしたそう。さすがの由真さんも黙っていられず、修さんに苦しいからやめて欲しいと正直に伝えました。
「いやお前、院長夫人にしてやったんだぞ? 究極の玉の輿だろうが。よくそんな、図々しいこと考えつくな。俺とお前が人間として対等だと思ってる?」
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