与党のLGBT理解増進法案は差別の余地を残すもの


今はLGBTQという言葉は多くの人の耳に馴染み、虹色のシンボルカラーもよく知られています。でも、日本には性的マイノリティに対する差別を禁止する法律がなく、同性との結婚もできません。テレビなどではすっかりお馴染みの存在なのに、社会には馴染ませまいとするような制度の障壁が残ったまま。表面上は社会が変わったようでも、肝心の根本的な制度は変わっていません。これは深刻な人権問題です。今年の東京レインボープライドのテーマは「変わるまで、続ける Press on till Japan changes 」。こうした現状が変わるまで続ける、諦めないという意志の表明でもあるのですね。

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5月には岸田首相の地元・広島でG7サミットが開催されます。先進7カ国で同性婚を認めておらず、性的マイノリティに対する差別禁止法がないのは議長国の日本だけ。4月のG7外相サミットでは、女性と女児と性的マイノリティの権利保護について「世界を主導する」と共同声明を出しました。もちろん日本もその中に入っています。国内外から批判の声が上がる中、与党は差別禁止法ではなく「LGBT理解増進法」という名称の法案を検討中。差別禁止を明確に打ち出すよりも、まずは理解を広めましょうという考えのようですが、人の命に関わる問題なのだから、なによりも差別禁止の法整備をこそ急がねばなりません。

 

しかも国民の理解はすでに十分深まっており、調査によって幅はありますがメディアの世論調査では同性婚には7割ほどの人が賛成、若年層では8〜9割にも達しています。政治家の理解不足こそが深刻です。いえ、理解不足ではなく差別を温存する姿勢と言えるでしょう。自民党内には、法案に「差別は許されない」という文言を盛り込まないようにするべきだという強硬な意見があると報じられています。G7前に法案成立を急ぐ動きもあるようですが、落とし所として「差別は許されない」という文言を「不当な差別は許されない」にするのはどうかなどの案が出ているそうです。差別を禁じる文言に「不当な」をつけていわば条件付きの差別禁止とし、党内の強硬派を説得しようということでしょうか。それでは差別温存になりかねません。「不当ではない差別」が何に当たるのかを、国が恣意的に決められる余地があるからです。

東京レインボープライドの会場のあちこちで聞いた「ハッピープライド!」という言葉。性的マイノリティが安心して幸せに暮らせる社会を実現しよう! という思いが込められています。楽しむことはとってもすてきなこと。イベントも人生もそうですよね。人が楽しく、ハッピーでいられるのは、怖い思いをしたり酷いめにあわされたりしないからこそ。誰もが等しく大切にされる世の中、つまり人権が尊ばれる社会では、ハッピーに生きられる。人権のためにアクションするのは堅苦しいことでも過激なことでもなく「幸せになりたい」「みんなが幸せな世の中に暮らしたい」という素朴で切実な願いを叶えようとすることです。

パレードなんかで世の中は変わらないと言う人もいるけど、そんな冷笑的な態度こそ、世の中に何もポジティブな変化を起こしません。なんだか楽しそうだなーとイベントを見に行き、それをきっかけに知識を深める人が増えれば、世の中は変わります。実際そうして日本の社会は着実に変わってきたのです。私が子供の頃にテレビで人気だった同性愛差別的なお笑いのキャラクターは、今では批判されています。私も当時は笑っていましたが、今は怒りを感じます。それを辛い気持ちで見ていた人たちがいることを知ったからです。小さなきっかけから人と出会い、学びを得て経験を積み、今では以前よりは視野が広がりました。