平穏な日常に潜んでいる、ちょっとだけ「怖い話」。
お隣のあの人の独白に、そっと耳を傾けてみましょう……。
 

第20話 漆黒のブライダルフェア

「新郎の名前が、ない...?」ブライダルフェアに独りで来る奇妙な彼女。不審に思った担当者が見た、ナイトウェディングの衝撃_img0
 

「ねえねえ、桜井さん。今夜のフェアの参加者、チャペルに集まってきましたけど……桜井さんの担当する方、『要注意』じゃないですか?」

後輩ウェディングプランナーが、いかにも興味津々という様子で囁く。僕はフェアの準備で忙しく、資料をバンケットルームに運び入れながら彼女が指さす方向を見た。

 

「要注意? 僕の担当は確か立花ゆかり様、35歳、会社員、世田谷区在住だよ。オンラインの事前申込書もきちんと記入してくださってるし、ぜんぜん要注意じゃないさ」

そうは言いながらも、直接お客様とお話するのはチャペルの模擬挙式のあとだから、まだご本人には会っていない。

……要注意ってそんなにまずい感じなのか? さりげなくチャペルのほうを見た。ハンドベルのデモ演奏が幻想的なろうそくの明かりの中で行われ、カップルのお客様がうっとりとそれを聞いている。

その中に、最後方で1人参加の女性がいた。直感的に、その方が「立花様」だと思った。

結婚式場のフェアにはカップルでいらっしゃるのが普通。もちろん多忙な方もいるので、どちらかがまず下見にくるということもある。

でも今夜のようにハーフポーションとはいえ、模擬披露宴とコース料理の試食会と銘打ったときは、ほぼ間違いなくカップルで来場する。なかにはデート気分で、本気で結婚式を検討していなくても食事つきデート気分で来る方も。

にもかかわらず「彼女」は今夜、この試食&演奏つきナイトブライダルフェアにたった一人で参加していた。
 

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平穏な毎日に潜む、恐ろしいシーンをのぞいてみましょう。
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