連れ子を「時給」で世話する男
珠美さんはこの一言に小さく失望したそうですが、けれどたしかに勝也さん側のお子さんと交流などをこれまでに求められたことはなかったため「お互い様」として黙って受け入れたそう。
「でも、彼はこのとき私の車も自由に使っていて。送迎なんて車を使えば往復30分もかからない労力です。それを私たちに使ってくれないんだ、と思いました。食費や水光熱費なども事務諸費用のついでで全部私が負担していたので、それならば、そろそろ分ける部分はきっちり分けようと考え始めました」
お話を聞いていると、このとき勝也さんはほとんど珠美さんに養われている状態だったと思いますが、それでも珠美さんは、彼の「仕事がデキる」「男らしい」という面に惹かれていたと言います。
しかしいくら能力の高い男性とはいえ、生活の負担が珠美さんにだけかかるのは不健全と思ってしまいますが……珠美さん自身も違和感を持ちつつ、それでも彼を受け入れてしまうのは「恋は盲目」だからでしょうか。
そして、ちょうどその頃、珠美さんの仕事に転機が訪れます。
タイミングと縁が重なり、珠美さんはこれまで経営していた会社を売却することになったのです。長年建築業をしてきた珠美さんですが、もともと食への興味が人一倍強く、料理の腕もプロ並だったため、思いきって飲食業を始めることにしました。
「このとき彼の住んでいた事務所もなくなることになったので、じゃあ一緒に住もうという話になりました。実は彼は少し前に父親を亡くして、少しまとまった遺産を手にしていました。それを頭金にして家を買おうと提案されたんです」
これを機に、家のローンは勝也さん、その他生活にかかる費用はすべて珠美さんが負担することで話はまとまりました。また同時に、このとき彼からプロポーズもされたそうです。けれど珠美さんの反応は意外なものでした。
「彼には『一緒に住んで“けじめ”をつけよう』と、婚約指輪ももらいました。でも、私は例の『あなたの子どもは俺の子どもじゃない』という発言がずっと引っかかっていて。けじめと言うなら、私の子どもも受け入れてくれるべきだと思ったので、結婚はとりあえず見合わせることにしました」
そうして子連れ同棲生活がスタート。慣れるまでは色々とあったそうですが、徐々に生活のリズムも整い、生活費も分担することになり順調と言える日々だったそうです。
「でも、薄々気づいてはいましたが、当初は堅実に見えた彼の正体は『究極のケチ』でした。彼の勤務時間以外の食事は私が用意するのが日常になっていましたが、例えば私が仕事で夕飯を作ることができないと、外食したレシートを渡されるんです。
子どものお世話も少しずつしてくれるようになりましたが……でも、実は私がいない時は時給を払ってお願いしました。そのときかかったお茶代や交通費もすべてあとから請求されます。大体週に1度、エクセルのシートと領収書を渡されるんです。始めは『え?こんな数百円すら請求するの?』と怖くなったこともあります。でも、彼は自分が払うお金は家のローンだけと頑なに決めていて、それ以外は1円たりとも払わない。それがポリシーでした」
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