一般的に、経済が低迷し社会が貧困化してくると、中間層を対象としたお店の一部は存続が難しくなってきます。

飲食店側は富裕層に焦点を定め、高品質なものを高い価格で提供するのか、マスを対象に大規模に低価格で提供するのかの二者択一を迫られます。しかしながら、超高級店として生き残れるお店はごくわずかですし、マスを対象としたお店は、大きな資本力を持つチェーン店が圧倒的に有利です。
 
そうなると、中間地点に位置するお店の中には、無理をして価格を下げ、話題先行で食材を提供する方向に走るところが出てきます。しっかりした経路での仕入れを怠ったり、衛生管理が杜撰になるケースが出てきますから、結果として食中毒のリスクが高まるという流れです。

近年、政府は鳥獣被害対策としてジビエ(野生鳥獣肉)の市場拡大を政策として進めています。

北海道全域に生息するエゾシカは近年の爆発的な個体数の増加により、農業被害のほか生態系への影響も深刻化している。木に巻かれているのは鹿の食害から守るための防除ネット。写真:諸角寿一/アフロ

確かに鳥獣被害対策を進めたい農村と、ジビエを食べたい消費者をうまくマッチングできれば、双方にメリットとなります。しかしながら、この政策もしっかりとした安全対策を施さないと食中毒のリスクを増大させる危険性があります。 

 

ジビエはその名の通り、野生にいる鳥や動物の肉を使った料理ですから、その動物が何を食べてきたのか、どのような環境で生きていたのか完全に知ることはできません。したがって調理方法や衛生管理などは、家畜を使った食材よりもさらに神経を使う必要が出てきます。

フランス料理の世界では、ジビエは季節の風物詩として知られていますが、筆者もジビエ料理が大好きで、秋になるといつも楽しみにしていました。本格的なジビエ料理の場合、猟師が撃った散弾銃の弾が肉の中に入っていることもあり、少々生々しく残酷ではありますが、いつもの料理とは違った味わい方が楽しめます。

しかしながら、フランス料理のジビエは、あくまで季節の風物詩であり、価格も高いですから、常日頃から大量に食べるものではありませんし、調理する人にも相応のスキルが求められます。

日本においてもジビエ料理を拡大すること自体は良いことだと思いますが、単なるブームとしてこうした習慣が広まってしまうと、場合によっては衛生面でのリスクが高まる可能性は否定できないでしょう。

コロナ危機以降、資源価格の高騰と円安のダブルパンチで、あらゆるもののコストが上昇しています。こうした経済情勢においては、今までのように安くて良いものを大量に食べられるということは原理的にありえません。

どうしても高級品を食べたい人は相応のお金を払うか、そうでなければ、庶民的であっても安全でおいしく食べられる食材を徹底して楽しむなど、食の味わい方を変えていく必要があるでしょう。
 

 

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