作家・ライターとして、多くの20代~40代の男女に「現代の男女が抱える問題」について取材をしてきた山本理沙。その赤裸々な声は、まさに「現実は小説より奇なり」。社会も価値観も変化していく現代の夫婦問題を浮き彫りにします。
今回お話を伺ったのは、都心で安定した暮らしをしながらも「実はひとりで離婚準備を進めている」という静香さん(40歳・仮名)。一流企業勤務の男性と結婚し、可愛い娘さんもいる彼女は客観的には完璧な人生を送っているように思えますが、それは「本当に欲しいものではなかった」と言います。他人には話せないという、その心情を告白いただきました。
職業:事務、ボランティア活動
家族構成:夫、10歳の娘
40歳を目前に訪れた「反抗期」?
「少し前にしばらく不妊治療をしていたとき、なんだか急に、すべてがどうでもよくなっちゃったんです」
ファッション誌からそのまま飛び出てきたようなヘアメイクにコーディネート。品はあるのに程よい抜け感のある雰囲気を自然に醸し出す静香さんは、まさに都心の豊かな家庭の妻そのものという印象です。
ちょっとした仕草や声のトーン、表情など、すべてが思わず見惚れる美しさなのに、嫌味がない。こんな女性は、きっと生まれた時からすべてにおいて恵まれてきたんだろうと思わずにはいられませんが、今、彼女はなんとそのすべてを手放してしまいたいと言います。
「たぶん、外から見たら私は恵まれてるんでしょう。素敵とか憧れるとか、女の幸せをぜんぶ手に入れたとか言われることもよくあります。実際、私もそれを手に入れるためにずっと頑張ってきました。自覚もなかったけど、たぶん10代の頃から。
女としてほどほどの学歴に勤務先、好条件の結婚に適齢期の出産......。今考えると、これらは私の人生の必須チェックリストのようで、一つ一つチェックをつけていくことが揺るぎない目的......というより義務だったんです。昔からの友人も同じような子が多くて、例えば反抗期や“自分探し”などする暇もなく、受験も就活も婚活も妊活も黙々とがんばってきました」
多くの女性の憧れのステータスをさらりと「チェックリスト」と喩える発言は、一歩間違えば高飛車と捉えてしまいそうですが、彼女の淡々とした口調は切実です。
「迷ったり悩んだりすることも特にありませんでした。というより、そんな暇はないくらい『正解と信じていたルート』から離脱してはいけないと必死でした。これより下の学校や会社に行けなかったら人生終わる、20代で結婚しないと人生終わる......とか、馬鹿みたいですが、それなりの生活基準を満たすために必要なものは取りこぼさないよう必死だったんです。
今思い出しても、若い頃の私は本当にがんばっていたと思います。もはや軍隊みたい。なんならどこかで挫折していた方が、今さらこんな虚無感を味わうことはなかったかも。40歳にもなって、子供もいるのに離婚したい、恋愛したい、セックスがしたい、好きな仕事をしたい、自由になりたい......そんな欲求が抑えられなくなるとは思いませんでした。いい歳で反抗期みたいですよね」
そのエレガントな雰囲気には少々似合わない発言に驚かされますが、一説によると、40代は「第二の思春期」とも言われているそうです。
静香さんの言う「反抗期」が起きるまでの経緯を詳しく伺います。
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