リアルな中年女性が日本の映画に少ないのは、男性監督が多いから


――映画の中では、女性の更年期障害がしっかりと描かれています。あまり映画で見る描写ではないので新鮮でした。


荻上 それは男性監督が多いからじゃないですか。私が今回取り入れたのも、まさに今自分がそういう年齢に突入しているから。大変なんですよ、浮き沈みがあって。母を見ていても、すごく辛そうでしたし。女性にとっては普遍的なテーマで、むしろ他の映画でなんで出てこないんだろうというくらいなんですけど。

「女性の描写に違和感を持つことがある。こんな都合のいい女いねえだろって」究極の“女のエンパワメント映画“『波紋』座談会_img5
 

筒井 先日、放送作家の町山広美さんと対談をさせていただいたときに、日本では男性は年をとっても変なおじさんの役とかいろいろあるのに、女性は誰々のお母さん役しかなくなるという話題が出て、まさにそうだと思います。だから、今回、監督がこうして狂った女の役を描いてくれてうれしかったですし、これからももっといっぱい書いてほしいと思いました。

荻上 他の監督の映画を観ていても、女性の描写に違和感を持つことはありますよ。こんな都合のいい女いねえだろって普通に思う。

木野 本当に都合のいい側面だけを取り上げますからね。

荻上 見た目も綺麗で、男性の言うことを聞いてくれる女性ばかり。

木野 女性に聖母マリアでいてほしいんでしょうか。

キムラ 海外の映画を観ると、もっと女性がありのままの姿で出てきますよね。そんな感じで出てもいいの? という人が主役を張って、すごい演技を見せつけてくれているのを観るとカッコいいなと思う。

筒井 『ノマドランド』とかね。

キムラ 普段からさんざん洗い物してるんだろうなというようなボロボロの手でそのまま出てるみたいな感じがすごくいい。

木野 いつになったら日本でもそういう映画を男性の監督がつくってくれるんだろうと思う。女性の生活感のある生々しい側面をちゃんと見てくれる男性の監督を、長いこと待っている気がします。

キムラ あとは脚本ですね。男性女性にかかわらず、中年のリアルを書ける人がもっと出てきてほしい。日本の映画を観ると、若くて綺麗な人たちの話ばかりな気がするし、ちゃんとドラマ性を背負えるだけの実力がある主役でないと、見応えのある映画にはならないと思うんです。もちろん若者の実力者も沢山いますけど。

「女性の描写に違和感を持つことがある。こんな都合のいい女いねえだろって」究極の“女のエンパワメント映画“『波紋』座談会_img6
 

木野 正直に言うねえ(笑)。

キムラ 私はもっと年をとった人たちが人生の生々しいところをいっぱい見せてくれるような映画が観たい。だから、この映画を監督がつくってくれたことが本当にうれしくて。

筒井 そう考えると、韓国ってすごいですよね。韓国は金大中さんが映画を国策にしたでしょう。

木野 韓国は大学で演技をちゃんと勉強してきてるから、みんな新人なのにすでにうまい。若くて綺麗な人もちゃんと上手い。そして一番違いを感じるのは、脇を固める中高年の層の厚さ。まさに演劇大学を卒業して30数年、熟成したいい味のおばちゃん・おばあちゃん役の女優さんたちが活躍してますよね。日本は、その層が薄いんです。若い人はすごく無防備に見える。若くなくなってからの対策がないまま、消費されてるなぁって。

キムラ 若くて綺麗ならいい、だけじゃ、ちょっと困りますよね。

木野 多分それ以上求められないから、伸びるきっかけもないんでしょうね。でもこれは俳優に限らない話で、日本は特に女性の若さと美しさばかりがもてはやされて、キャリアは二の次。私の時代なんて家庭と仕事を両立させるという選択肢がなかった。専業主婦になるか独身のキャリアウーマンになるか。で、専業主婦として、子どもを産んで育てて、家庭を支えた先がこの映画の依子みたいな話だったら、もう救われないよね。

荻上 私、よくファミレスで脚本を書くんですけど、前に専業主婦の方たちが「働いたら負け」と話しているのを聞いてびっくりしました。

木野 夫の稼ぎがあるからそう言えるんだろうね。

荻上 でも、夫の稼ぎなんていつどうなるかわからないし、それに依存しているとそれこそ離婚したいと思ったときに立ち行かなくなる。とても危ういものだと思うんですよね。