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葛飾北斎「冨嶽三十六景 凱風快晴(がいふうかいせい)」部分

葛飾北斎の作品を収蔵・展示する、東京のすみだ北斎美術館で、北斎や門人が描いた山の作品を集めた展覧会「北斎 大いなる山岳」が始まります。

有名な「富士山」だけでなく、各地の山の魅力を浮世絵を通して楽しむユニークな展覧会は、『THE北斎 冨嶽三十六景ARTBOX』の著者で、登山好きでもある学芸員・奥田敦子先生の企画によるもの。有名な作品も多く出品される本展の見どころをご紹介します。
 

 

古くから日本人に愛される霊峰・富士山のさまざまな姿

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葛飾北斎「冨嶽三十六景 諸人登山(もろびととざん)」(前期展示)

日本の最高峰、古くから信仰の対象であった富士山を描いた有名な「冨嶽三十六景」のうち、「諸人登山」。

でもどこにも富士の姿が見えませんね。実はここは富士山頂。お鉢廻りをする「富士講」の人々が描かれています。画面右上の風除けの石室では、大勢の人がひしめき合って休んでいます。フリースを着込んで日の出を待つ、現代の登山客と似ているような気がしませんか。

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葛飾北斎「冨嶽三十六景 凱風快晴(がいふうかいせい)」(作品を替えて通期展示)

“赤富士”の愛称で呼ばれる「凱風快晴」。北斎の作品の中でも著名な一図でしょう。赤富士とは夏から秋にかけての早朝、富士山が朝日を浴びて山肌を赤く染める現象のこと。穏やかな風が吹き、鰯雲(いわしぐも)が流れる空の下、少しずつ夜が明けていきます。残念ながらどこから眺めた富士山なのかはわかっていません。
 

日本で一番低い「人工の山」は、今も昔も人気の観光地!

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葛飾北斎「諸国名橋奇覧 摂州安治川口天保山(せっしゅうあじかわぐちてんぽうざん)」(作品を替えて通期展示)

現在の大阪市港区に位置する天保山は、天保2年(1831)に安治川の浚渫工事でさらった土砂を積み上げてできた人工の山。当時は10間(約18メートル)の高さがありましたが、現在では約4.53メートル。二等三角点(日本の位置の基準を表す国家基準点)がある山としては日本一低い山です。

現在も観覧車や水族館が人気の天保山エリアですが、北斎が描いた天保山も満開の桜を楽しむ人々でにぎわっています。
 

天狗も山姥も「山」のうち?

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葛飾北斎『北斎漫画』三編 天狗 猩々 幽霊 山姥 (通期展示)

神聖な場所である山は、同時に異界への入口であり、不思議な存在が住まう場所。山深い場所には豊かな妖怪世界が広がっていたと信じられていました。北斎も『北斎漫画』のなかで、深山に住む伝説上の生物・天狗(右頁上)や狒々(ひひ・右頁下)、山奥に住む山姥(やまうば・左頁下)を描いています。

描かれた山の姿を通して、かつての信仰や、日本人と山との深いつながりにも気づかされます。展覧会のキャッチコピーである「北斎の山を登れ。」の言葉通り、山を身近に感じる機会となるはず。浮世絵で各地の山をめぐる展覧会は、夏休みにもピッタリです。

前・後期あわせて30にも及ぶ山が登場する今回の展覧会では、作品解説のほかに、山の説明や「登山好き学芸員の現地レポート」がある作品も。こちらもお楽しみに!

〈作品はすべてすみだ北斎美術館の所蔵です〉
 


企画展『北斎 大いなる山岳』

会期:2023年6月20日(火)~8月27日(日)
※前後期一部展示替えを実施
前期:6月20日(火)~7月23日(日)
後期:7月25日(火)~8月27日(日)
会場:すみだ北斎美術館(東京都墨田区亀沢2-7-2)3階企画展示室開館時間:9:30~17:30(入館は17時まで)
休館日:毎週月曜日 ※7月17日(月・祝)は開館、翌18日(火)は休館
すみだ北斎美術館 公式ホームページ:https://hokusai-museum.jp


ちょっと「お宅拝見!」

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北斎アトリエ(再現模型) 撮影:尾鷲陽介

すみだ北斎美術館のAURORA(常設展示室)には、北斎のアトリエが再現されています。生涯に約90回の引っ越しをした北斎が84歳の頃に住んだ借家のようすで、左は娘の阿栄(おえい・葛飾応為)。北斎は、絵を描くのも人と会うのもこたつに入ったままだったとも言われます。「北斎 大いなる山岳」を鑑賞したら、北斎先生と阿栄さんにも会ってみませんか。
 

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すみだ北斎美術館の公式BOOK
THE北斎 冨嶽三十六景ARTBOX

著者 すみだ北斎美術館(奥田敦子)

すみだ北斎美術館の至宝、「冨嶽三十六景」シリーズ46点を完全収録。
海外で最も有名な日本絵画とも言われ「Great Wave」として人気の「神奈川沖浪裏」、「赤富士」として親しまれる「凱風快晴」⋯⋯。すみだ北斎美術館所蔵の「冨嶽三十六景」46図をすべてオールカラーで紹介する初の公式本。豊富な参考図版とていねいな解説、クローズアップで見る彫り、摺りの技。天才・北斎の、技(テクニック)と着想(イマジネーション)ここに極まれり!

奥田 敦子
東京学芸大学大学院博士課程修了。太田記念美術館主任学芸員を経て、すみだ北斎美術館の開設に準備段階から関わる。現在、すみだ北斎美術館主任学芸員として、開館記念展ほか多数の展覧会の企画開催。国際浮世絵学会理事。著書『広重の団扇絵 知られざる浮世絵』(芸艸堂)のほか、葛飾北斎・妖怪・花火などに関する論文・解説多数。

 

チケット読者プレゼントのお知らせ
5組10名様に企画展「北斎 大いなる山岳」の鑑賞券をプレゼント

東京・すみだ北斎美術館で開催されている企画展「北斎 大いなる山岳」(2023年6月20日~8月27日)の鑑賞券をプレゼントいたします。

応募締め切り:7月3日(月)〜11:59まで
●応募にはmi-mollet(ミモレ)の会員登録(無料)が必要です。
●プレゼントのご応募は、1回までとさせていただきます。
●当選者の発表は賞品の発送をもってかえさせていただきます。

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構成/からだとこころ編集チーム
 

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