10代の頃、早く地元から出て東京に行きたかった。でも、実際に東京で一人暮らしをしてみるといつも緊張している自分がいた。
嫌いだった地元に、40代になって戻った43歳シングルマザーの「二度目の実家暮らし」を描く『縁もゆかりも』の1巻が6月12日に発売されました。
43歳の瑠璃は、離婚しシングルマザーに。中学生の息子を連れて、10代まで過ごした地元・三重県の宇治山田に戻ります。母親が一人で暮らす実家に帰ったはずが、兄も一人娘を連れて戻ってきていました。そして、母親・瑠璃親子・兄親子の5人での同居がスタートする⋯⋯。
本作のテーマは、「40代の二度目の実家暮らし」。10代で上京してきたミドル世代の女性には、あちこち「そうなんだよねぇ⋯⋯」とささるポイントが多いんです。
地元は好きじゃないけど、実家にいると安心する「変わらない」感覚
地元に戻るなり三重の郷土料理「てこね寿司」にウキウキを隠せない瑠璃。彼女は魚が好きだったのに、離婚する前には、夫が魚嫌いだからと食べていなかったのです。
あと、実家の玄関に一歩足を踏み入れると安心するのだ、というシーン。
東京にいる時は、ずっと緊張していたと彼女は言います。実家には、何歳になっても家族に守られているような安心感がある。
東京ではよそいきの、社会に出る自分。
実家では素のままで、好きなものを食べたり飲める自分。
地元を嫌って、自分の意志で東京に出てきたくて上京してきたのだけど、東京は「帰る場所」には決してならない、そんな感覚を持っている方も多いんじゃないでしょうか。
そして、いとこ同士の息子と兄の娘、そして息子と兄、やっぱり血のつながりがあるからか似ていると発見する瑠璃。
母・兄と再び暮らすことで「うちの家族ってこういうとこあるよね」という家族の系譜。「家族あるある」の母が子にする昔話も、「帰る場所」の実家ならでは。
地元の味や実家は、シングルマザーになった彼女を安心させてくれる「変わらないもの」なのです。
10代の時と、40代になった今とで「変わったもの」
一方で、「変わったもの」も。
彼女と兄がかつて通っていた中学に通う、息子と兄の娘。当時と変わったのは校舎だけではありませんでした。
息子たちの制服は、スカートかズボンか選べるようになっていました。兄の娘がズボンを嬉しそうに穿いているのを見て瑠璃は、スカートへの違和感を抱いていた中学生の自分を思い出します。
ミモレ世代が中学生だった頃には女子の制服でズボンなんてありえなかったけれど、瑠璃のように本当は穿きたかった女子学生はきっといたでしょう。
また、久しぶりに行った中学校で瑠璃が同級生に会うシーンでは、当時苦手だった子との距離感の変化が描かれます。
瑠璃は、ズボンを穿きたかったくらいなので、学生時代は多分ギャルではなかったはず。でもギャルだった同級生と、今では離婚という共通の話題で繋がれて、なんだか楽しいと感じるのです。
瑠璃だけでなく、同級生も「変わった」のです。
最後は、瑠璃自身が「変わった」と自覚するシーン。
最近の歌の歌詞が聞き取れないと彼女は感じます。
昔は音楽を結構聴いていたはずなのに、今はどれを聴いてもよくわからない。この感覚も、ミモレ世代ならあるんじゃないでしょうか。
彼女は年齢のせいだと思うのですが、それは間違いだったとわかります⋯⋯。
膝上のスカートが「違う」と思っていたことを忘れていたし、流行の歌の歌詞が聞き取れなくなってきたこと。中学生の時は当たり前のように持っていた感性を失っていたことに気づく瑠璃。
10代の頃の自分って、一番「自分純度」が高いと思うんです。
実家に帰ることは、その頃の自分を取り戻して「自分純度」を濃くしていくことなのかも。
ここ数年の閉塞感から抜けた今年の夏は実家に帰って、そこに住んでいた10代の自分を思い出して、「変わらないもの」「変わったもの」をゆっくり感じ「自分純度」を濃くしてみたくなる⋯⋯そんな作品です。
『縁もゆかりも』第1話を試し読み!
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<作品紹介>
『縁もゆかりも』
宇仁田 ゆみ (著)
主人公の瑠璃(ルリ)(43)は、「シングルマザーになる」という大きな決断をしたばかり。思春期の一人息子を連れて帰ったのは、年老いた母が一人で暮らす地方の実家。高校卒業以来となる地元へと戻った彼女の前に、なんと兄まで娘を連れて出戻ってきて⋯⋯!?
作者プロフィール:
宇仁田 ゆみ
1998年、ヤングアニマル(白泉社)にて「VOICE」でデビュー。以降、青年誌、女性誌を中心に短編を発表。代表作は『うさぎドロップ』(祥伝社)『よっけ家族』(竹書房)『パラパラデイズ』(小学館)など。
構成/大槻由実子
編集/坂口彩
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