2013年に発売後、大ベストセラーになった『嫌われる勇気』で、アドラー心理学を日本中に浸透させた哲学者・岸見一郎先生がお悩みに答える『泣きたい日の人生相談』。2017年からはじまったクーリエ・ジャポンの人気企画「25歳からの哲学入門」に寄せられた投稿から厳選された30の人生相談をまとめたものです。

「泣きたいけれど、泣けない人たちへ」岸見一郎先生が考える“先が見えなくなる不安”との向き合い方_img0
『泣きたい日の人生相談』(講談社現代新書)

岸見先生に、本書のタイトル『泣きたい日の人生相談』に込められた思い、コロナ禍で寄せられたお悩みの内容、今後変化してゆく社会の中で生きていくための姿勢などについてお話をうかがいました。

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著者プロフィール
岸見 一郎(きしみ・いちろう)

1956年生まれ。哲学者、心理学者。京都大学大学院文学研究科博士課程満期退学(西洋哲学史専攻)。奈良女子大学文学部非常勤講師などを務める。専門のギリシア哲学研究と並行してアドラー心理学を研究。ベストセラー『嫌われる勇気』(古賀史健との共著、ダイヤモンド社)のほか、『アドラー 人生を生き抜く心理学』(NHKブックス)、『生きづらさからの脱却 アドラーに学ぶ』(筑摩選書)、『哲学人生問答 17歳の特別教室』(講談社)、『人生は苦である、でも死んではいけない』(講談社現代新書)など多数の著書がある。

 


本書のタイトルは、泣きたいけれども泣けない人たちに向けてつけたもの

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写真:Shutterstock

――今回の本書のタイトル『泣きたい日の人生相談』に込められた思いを教えていただきたいです。

岸見 一郎先生(以下、敬称略):なかなか泣けない人が多いのです。でも、本当につらいこと、苦しいことがあった時には、泣いてもいい。
アドラーは厳しい人なので、泣いても問題は解決しないと言うでしょうが、辛い、苦しいと訴えられないと、悩みはどんどん深まっていき、苦しみが癒えるのに時間がかかってしまいます。

昔、精神科医で働いていた時、カウンセリングに来るのはほとんどが女性で、男性が来ることはほぼありませんでした。男性は、弱音を人に見せるのが恥ずかしい、とか、悩みを他人に相談するべきではない、と思っている人が多かったです。日々働く中で我慢に我慢を重ねて、ある日目覚めたら体が動かない、そこでようやく心療内科や精神科を受診し、うつ病という診断を受けるのです。
だから、もっと早い段階でしんどい、辛いということを言ってほしい。そんな、泣きたいけれども泣けない人たちに向けて『泣きたい日の人生相談』とつけました。

生き方の一つとして、弱さをもっと出してもいいのではないでしょうか。
韓国ドラマを観ていると、男性が涙を流して号泣するシーンがよく出てきます。それでいいのではないかと思います。泣きたいという時には、この本を手に取ってほしいなと思います。

――精神科を受診するのはハードルが高いなと感じますが、この本だったら書店でこっそり手に取って帰れますよね。

岸見:精神科を受診するというのは、ハードルが高いと思われています。最近では、うつ病は社会的に認知されていますが、カウンセリングを受けて問題が解決し、次にはまたいつ来てもいいですよと言うと、もう一度、私と話がしたいがために病気になる人がいます。でも、本当は、精神科を受診するのにわざわざ病気になる必要はありません。

少し心がざわざわする時点でカウンセリングを受けてもいいのですし、全くそんな兆候がなくても、今よりももっと幸せになりたいと思ったら受診してもいい。そんなふうにもっと受診のハードルを低くしてもいいと思います。

――「クーリエ・ジャポン」連載時にはタイトルが『25歳からの哲学入門』でしたが、本書のタイトル『泣きたい日の人生相談』だとだいぶ印象が変わったなと感じました。

岸見:本書は一つずつの質問に具体的に答えるというより、問題に直面したときにどう解決していけばいいのかという糸口を示しています。

多くの人が想像されている人生相談では、いわば応用問題への答えが書いてありますが、本書は答えに至るための公式の理解に努めています。

それは哲学がベースにあるからです。哲学では、答えを出すのは非常に難しいのです。人生の諸問題は、自動販売機から飲み物が出てくるように答えは見つからないことを知ってほしいです。