脳科学者の中野信子さんは、京都の人たちに対して「コミュニケーション巧者(こうしゃ)である京都の人たちに対するとき、憧れと畏怖の気持ちの入り混じった感情が自然と沸き起こるような感じがします」と言います。特に、京都の人の「イケズ」。自分も相手を傷つくことなく、戦略的なあいまいさで毒を吐き、断ったり指摘したりするイケズに、中野さんは魅力を見いだします。

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そんな中野さんの新著『エレガントな毒の吐き方 脳科学と京都人に学ぶ「言いにくいことを賢く伝える」技術』は、京都の人に微に入り細にわたり言い回しについて教えもらい、京都以外の人のコミュニケーションにも役立つようにと、まとめられた一冊。「本音が大事」という世間の風潮に一石を投じる、エレガントに毒を吐きながら豊かなコミュニケーションをとる方法について、本書から特別に4つのレッスンを抜粋してご紹介します。

 

中野信子(なかの・のぶこ)さん
東京都生まれ。脳科学者、医学博士。東日本国際大学教授、京都芸術大学客員教授、森美術館理事。2008年東京大学大学院医学系研究科脳神経医学専攻博士課程修了。脳や心理学をテーマに研究や執筆の活動を精力的に行う。著書に『世界の「頭のいい人」がやっていることを1冊にまとめてみた』(アスコム)、『サイコパス』(文春新書)、『毒親』(ポプラ新書)、『フェイク』(小学館新書)など。

 

レッスン① 「褒めている」ように見せかける

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京都人の会話は、相手を褒めるということを基本にしているのだそうです。代表的なのが、今や有名になった「お嬢さん、ピアノが上手どすなぁ」や「ええ時計してはりますなあ」。

ピアノの場合は、音がうるさい。しかし直接相手に苦情を言うと、人間関係にヒビが入ることもあります。そこで、一見、褒めているように言って、真意を言葉の底に分かりやすく置いておくのです。

この「分かりやすい」のも、一つのポイントといえるでしょう。あまりにも真意とかけ離れていると、相手に通じないからです。京都人の本音は、「自分がストレートに言う前に、相手から気づいて行動を改めてほしい」のです。

また、相手が「ピアノがうるさいと文句を言われた」と認識し、抗議しようとしても、表向きは褒めているので喧嘩にはならないというリスクヘッジもあります。
 

日常で応用する方法


本気で自分を下げるのではなく、「自分を下げているように見せて、相手を上げているように錯覚させてしまう」というのも、イケズの上級者はよくやるとのこと。

たとえば、「これやれって言っただろう!」みたいなパワハラまがいの言葉に対しては、
「そうおっしゃっていたとは気がつきませんでした」
「○○さんはそんな合理的なやり方を思いつくなんて、さすがですね」
など、謝罪や反省をしているように見せかけて、実は「言われていません」「教えてもらっていません」という意味を含ませる。「察してほしい」という気持ちをにじませて、相手が恥ずかしく感じるようになるまで熟成させておくのだそうです。

この方法は、マウンティングしてくる人に応用してみるのもいいかもしれません。たとえば、明らかにインターネットでバズっている情報を、あたかも自分が世界で最初に初めて広めたかのように言ってくる同僚や、話題になっているグループをあたかも自分が最初に見いだして、デビューする前から知っていたみたいなアピールをしてくる方に対してです。
どう言うか。まずは、
「さすがですね!」
などと相手を立て、そのあと、
「次は誰がくるんですか?」
を付け加えると、とてもいい感じですよね。シチュエーションを想像するだけで楽しくなってきます。