大人の「期待」を読み取る子どもたち


この春、非常勤講師をしている大学の授業で、ランドセルメーカーであるセイバンの「ランドセル選び ドキュメンタリー篇」という動画を大学生たちと一緒に見ました。。

この動画では、まず子ども達が色とりどりのランドセルの中から1つを選んでくるのですが、それを別室で見守る親たちは「ピンクが好きなのでピンクを選ぶと思います」「長い目で汚れが目立たなそうなベージュとかがいい」「(男の子に対し)赤じゃなかったらいいかな」などと言っています。

この親の「期待」するランドセルを、ほとんどの子どもが見事に選んできます。親たちは満足げに頷きますが、実は、これは子どもが使いたいランドセルではなくて、「保護者の方が選んでほしそうなランドセルを選んでもらった」のでした。そのことが親にも明かされ、「お母さんが、こういうのが好き」「お父さん、ここが好きだと思う」という子どもの解説に、親は苦笑します。

今度は本当に自分が使いたいランドセルを選んでもらいます。子ども達は明らかに先ほどよりも明るい表情で、ほとんど迷うことなく、まっしぐらに、自分の好きなランドセルに向かいます。

その中で、一人の男の子はピンクのランドセルを「これがいい」と差しました。「お母さんがピンクがかわいいって言う」と先ほどピンクを選んできた女の子は水色を選びました。親たちは「自分が気に入ったものが一番」と、その選択を肯定し、自分の一番使いたいランドセルを背負ったわが子に対面し、「似合ってるよ」と声をかけます。

とてもいい動画だと思いましたが、一方で見た人たちの心に残るのは、子ども達は小学校に入る前の時点で、既にこんなに周囲の大人たちの求めるものを類推できているということです。

 


大人がまず自覚的に

ジェンダーギャップ指数125位の日本で、一見平等にみえる「教育」に注目。日常に潜む“男らしさ、女らしさ”の刷り込みを自覚するために_img0
写真:Shutterstock

大人が色やおもちゃ、女の子らしさ・男の子らしさを押し付けないことは意外と難しく、いくら男女混合名簿など様々な教育の在り方が男女平等になってきたとは言っても、日常に紛れ込んでくるジェンダーバイアスはあります。

「女性版骨太の方針(女性活躍・男女共同参画の重点方針)2023」には

「学校現場において、男女の尊重や自分を大事にすることの理解、固定的な性別役割分担 意識解消の理解を深める教育を推進するための教材、指導の手引き及び保護者向けの啓発 資料を活用するよう各教育委員会に促す。また、児童生徒の固定的な性別役割分担意識や 無意識の思い込み(アンコンシャス・バイアス)を解消するための取組や、幼児期からも 同様に、固定的な性別役割分担意識等を植え付けることなく、女子の理工系分野での活躍 など将来のあらゆる選択肢について自由な希望を抱くことができるようにするための教育 環境の整備に資する取組を行う」


という文言が入りました。

「政治」「経済」はもちろんのこと、「教育」の分野もまだまだ見直す点は多々あると思います。次世代にジェンダーギャップを再生産させないためには、大人たちが自分たちの言動に潜んでいるバイアスにまず自覚的になることが第一歩ではないでしょうか。

出典:
1. 中西祐子 2012「教育におけるジェンダーとペアレントクラシー」宮島喬・杉原名穂子・本田量久(編)『公正な社会とは』人文書院、100-117頁)
2. 四本裕子 2021「脳や行動の性差 」認知神経科学 Vol. 23、No. 2

ジェンダーギャップ指数125位の日本で、一見平等にみえる「教育」に注目。日常に潜む“男らしさ、女らしさ”の刷り込みを自覚するために_img1