「これだけは譲れない」控え目妻の主張


3人目の子供が小学校に上がったタイミングで、早苗さんはフルタイムの契約社員として働き始めます。それは4年生になる娘に、中学受験をさせようと考えたから。

「中学受験をするんですか?」と思わず取材中に尋ねました。これまでなんだかんだと英明さんの価値観に寄り添ってきて、開眼してきた早苗さん。ここで英明さんが賛成しそうもない中学受験が出て来るとは正直言って驚きました。

ちなみに早苗さんは中学受験で難関私立中に進学していて、通塾歴も10年以上。一方の英明さんは地元の公立中で、当時はご本人曰く荒れていてあまり学校にも行っていなかったととのこと。塾に通ったことは一度もありません。

「自分でも驚いたんですけど、彼を通して新しい価値観を知ったし、生きる力は彼のほうが上だとおおいに認めていました。それにも関わらず、子育てとなると、やっぱり自分がやってきて良かったと思えることの中から答えを探してしまいます。小さいうちに一度ぎゅっと勉強しておくと、学ぶ楽しさを知ってそのあとに弾みがつくし、私自身の親友は中高時代の友達なので、子どもにもその環境を渡したいと考えました」 

「塾に月6万円!?何かの間違い?」元ヤン父、中学受験塾代に驚愕。秀才母の密やかな計画とは?_img0
 

早苗さんは客観的な視点をお持ちの方なので、そう言いながらもご自身の矛盾に気づいているようでした。

高卒で、受験勉強らしい勉強はほとんどしていない英明さんにも、一生の友達は大勢います。早苗さんの言う通り、たくましく生きる力は英明さんのほうがあるかもしれません。

 

それでも子どもには、競争社会の入り口とも考えられる中学受験に参加して欲しいと願うその深層心理はどのようなものなのでしょうか。

「学ぶことは、自分の選択肢を広げること。そしてひとは良くも悪くも身を置いた環境から多大な影響を受けます。夫が人懐こく明るい性格であることは夫がもともと持っていた天性の要素が大きい。もしかしてその資質を持って、夫が私と同じ環境で育ったら、また違う人生があったかもしれない。正直に言えば、そう思っています。

一方、娘は私の性格に似ていて、シャイで素直。夫のような環境にいてうまくいく保証はないとも考えました。だから子どもは、私と夫のハイブリッド型、美味しいところ取りをしてほしい。それが偽らざる気持ちです。

……ただ、そこまでの本音を、夫にどうやって誤解を生まずに伝えるか、とても悩みました」