「今できないはずのことも、できるように工夫する」
今井さんは当時通っていた女子大でデザインを専攻していました。
大学での勉強内容に満足しつつ、将来はさらに歯科医院で働くためのスキルも身につけたいと考えるようになります。より治療に関わるためには、歯科衛生士になるための専門学校への進学も候補です。ただ、せっかく親御さんにお金を出してもらったからには大学の勉強も全うしたい。ここは気持ちだけで突っ走るよりも、まずは今できることをやろうと決意します。
所属していたゼミの教授にも進路を相談すると、デザインの課題の全てを歯科関連にしてはどうかとありがたいアドバイスがあったそう。歯科で使えそうなピクトグラムを作成したり、診察券をデザインしたりと、将来歯科クリニックで働くために、違う角度からの準備と捉えることにしました。
この発想の転換、柔軟さと行動力が、のちに起こる今井さんの人生のピンチをチャンスにも変えていきます。
卒業後、夜間に通えるところを探し、アルバイトをしながら奨学金で歯科衛生士になるための専門学校に通い始めた今井さん。ここでの毎日は「こういうことが学びたかった!」という感動の連続だったと言います。もともと理科の生物分野や人体に関することが大好きだった今井さん。実習ではそれまでの立場ではできなかった、患者さんの歯をキレイにできる喜びがありました。
「今まで受付や助手として働き、治療を直接的にサポートすることができないことが歯がゆかった。ついに専門知識を得て、自分もさらに役に立てると思うと嬉しくて、もっともっと学びたいと思いました。とくに勉強が好きというタイプではなかったですが、歯科衛生士の勉強は自分でも驚くくらい楽しくて、夢中になれました。
自分の好きなこと、向いていることをやるって効率がいいですよね。好きなことや興味があることを素直にやってみると、人一倍頑張れて、結果的にはやく扉が開くのではと思います」
また、予期せぬプライベートの大きな変化もありました。専門学校在学中に勤務していた歯科医院の先生とご結婚され、ご主人の開業に伴い、今井さんもそちらに職場を移すことに。
「歯科衛生士としてはもちろん、受付、経理、開院準備、ウェブサイトオープン、全てをこなす必要があり、持てる力を総動員。精一杯の背伸びの連続で、無我夢中でした。
周囲からは『頑張りすぎじゃない……?』と心配されることもありました。でも患者さんやスタッフのためだと思うとやりたいことばかりで。私はそういうタイプなんだ、誰かの役に立つのがやりがいなんだと、働きながら気づきました。
大学で専攻していたイラスト、デザインの基礎も、診察券やDM、WEBサイトオープンにとても役だち、学んだことって無駄にはならない! と実感できました」
八面六臂の活躍を見せた今井さん。歯科衛生士としてのスキルも順調に上がっていきます。
直感に従い、厳しいスケジュールや条件を顧みず新しい世界に飛び込む今井さんの生き方は、この頃から現在も変わらないと言います。もうお分かりかと思いますが、これこそ、のちにパラキャリアにつながっていく鍵でもありました。
しかし、人生はずっと順調、とはいかないもの。予想もしなかった転機が30歳を前に訪れます。
Comment