65点で十分 小論文は100点を狙いにいかなくていい
小論文の試験では100点を狙いにいく必要はありません。どんな問題でも65点をとることができれば合格できます。
生徒たちにもこれは事前に伝えていて「65点でいいんだよ」と言って安心してもらっています。
なぜ65点で大丈夫なのか。これは僕の前任校である神戸の高校の経験が役立っています。
この高校は推薦入試で特に小論文指導に力を入れています。進学校でもないのに、国公立大学の合格者が年間で60人以上も出るのはなぜなのか。きっと何か魔法があるに違いないと思っていた僕に、同じ学年で僕に進学指導を教えてくださった先生からの一言は、「魔法なんてあるわけないやろ、泥臭さじゃ」という言葉でした。
当時の僕は「何かもっと効率の良い方法はないか」を考える癖があり、それも時には必要かもしれませんが、その先生には「産みの苦しみや、楽せんと徹底的にやれ」とユーモアを交えた厳しさで、大事なことを教えてもらえたと思っています。
合格ラインを知るためには実際に大学入試を終えた生徒に後日、当日の試験で書いた答案を複製してもらいます。成績開示を通じて、その解答に対しての点数がわかるので、「この解答で●●点─合格」「あの解答で■■点─不合格」と確認するうちに自分なりに各大学の合格ラインが見えてきました。
女子商で指導するときも、合格基準がある程度見えていることで「この実力があれば多分大丈夫」「もう少し勉強のペースを上げようか」と長期的な視点で生徒たちに合わせた声かけができます。
また、受験小論文では多少のテクニックも有効だと思っています。
小論文でよく出るのが、あるテーマに対して「賛成か反対か」の主張を求められるケースです。このときは基本的に文章を書いている筆者の主張が「賛成」であれば賛成の立場で、「反対」であれば反対の立場で意見論述することを勧めています。「小論文の問題は基本的に本などから出題されるよね?それを書いている人はその道の専門家。さらに、何ヶ月もかけてその意見をまとめている。それに対するは高校3年生。また、与えられた時間は90分。的確な反論をするには条件が悪くないかな?」と伝えます。
あくまでも受験問題としての小論文なので、生徒たちには「筆者の意見に賛同する旨を書いて自分が筆者の意見を理解していることを伝える。その+αでこんなことがあればより良いという意見が書ければGOOD。その解答例を筆者に読んでもらったとして『そうそう、私が言いたかったのはそう言うこと!』となれば合格のイメージだよ」と言っています。
大学入試の小論文では、主張が読み取れて自分なりの意見を持つことができ、論理的思考力・表現力があると採点者が確認できれば合格者の仲間入りです。
苦手だった小論文が得意になった
僕自身、大学受験で小論文を選ばなかったのは、苦手意識があったからでした。神戸の前にいた北海道の高校では、小論文の指導方法が全くわからず、一般的なテキストを用いて指導するスタイルをとっていました。
でも、小論文指導で多数の合格者を出す神戸の高校に赴任してから、毎日のように自分自身で小論文を書くことから始めました。
最初はとにかく書くことが嫌で、これが教員の悪いところかもしれません。
答えがない問いに向き合う恐怖。評価されることへの恐怖。なかなか上手く書けませんでしたが、やるしかない環境だったので恥じらいは捨てて、先生同士で意見を出し合ったりしていくうちに感覚を摑んでいきました。
高校時代には小論文指導を強みとして生きているなんて想像できなかったので、何が得意になるかはわかりません。
「小論文での推薦受験は邪道だ」と考える教育関係者もいます。でも、実際に女子商では小論文指導に重点を置いた結果、生徒の選択肢は確実に増えていると思います。
これからも小論文指導を通じて、生徒たちの挑戦を「援護射撃」していきたいと思っています。
著者プロフィール
著:柴山 翔太(しばやま・しょうた)
学校法人八洲学園 福岡女子商業高等学校校長。1990年北海道砂川市生まれ。国語科の教師として4つの私立高校を経験後、同校に常勤講師として赴任。赴任1年目で、進学指導・小論文教育により同校の国公立大の合格者をゼロから20人に増やす。1年目が終わるときに次年度の体制について直談判したところ、唐突に理事長から「君が校長をやればいい」と打診を受け、30歳で校長という役職を務めることに。主任や部長職、教頭の経験もない平成生まれの校長となる。校長就任後は学校改革を実施し、「朝課外の廃止」「起業家の学校への招待」だけでなく、生徒による「新制服デザイン」「修学旅行プランニング」「校則の見直し」などのさまざまな大人を巻き込んだ生徒主体のプロジェクト活動を実施。また、学校の魅力を発信する部活である「キカクブ」では、高校生自身が配信したTikTok動画が850万再生などを達成。その甲斐もあり、就任当初の令和2年度には94名であった新入生が令和5年度には217名に増加する。
『きみが校長をやればいい 1年で国公立大合格者を0から20名にした定員割れ私立女子商業高校の挑戦』
柴山翔太 日本能率協会マネジメントセンター 1815円(税込)
福岡県にある私立福岡女子商業高校が大きな話題になっている。2年前に赴任した国語科教員によって前年度は0人だった国公立大学合格者が一気に20人になった。その立役者が、30歳の若さで同校の校長に就任した柴山翔太先生である。本書では、柴山先生が何を考え、どう実践してきたかをまとめました。教育関係者だけでなく、多くの悩める高校生ならびに、指導者、親御さんの参考になる一冊です。
構成/大槻由実子
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